注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染経路について
感染が成立するためには宿主と微生物が遭遇する必要があり、その感染経路は各感染症により種々の形態をとる。これらを把握することは感染症の予防において特に重要となる。以下にその分類を示す。
1. 垂直感染
母子感染・・・出生前(厳密には経母乳感染など出生後も多少含む)に感染成立することから、下記の水平感染と区別されるもの。大きく経胎盤・経産道・経母乳の3経路に分けられる。TORCH症候群・HBV・HIV・HTLV-1が代表的。
2.水平感染
- a. 接触感染・・・皮膚や粘膜の直接接触、または患者周囲の物体表面を介しての間接接触で病原体が付着し、その結果感染が成立するもの。伝染性膿か皮といった皮膚疾患、流行性角結膜炎といった眼疾患のほか、疥癬、薬剤耐性菌(MRSA、VREなど)、破傷風、など多岐にわたる。
- b. 性行為感染・・・性行為、特に粘液・粘膜の接触により病原体が伝播するもの。クラミジア・淋菌・梅毒などが代表的。
- c. 空気感染・・・飛沫として空気中に飛散した病原体が空気中で水分が蒸発して5μm以下の軽い微粒子となった飛沫核や病原体が付着したほこりを吸い込むことによって伝播する感染するもの。このような微粒子は空気中を漂い、1メートル以上の長距離を移動する。麻疹、水痘、結核が代表的。
- d. 飛沫感染・・・飛沫核より粒子が大きい飛沫により空気中を伝播し、空気感染ほど遠くへは飛ばず、患者の咳やくしゃみ、あるいは気道の吸引などによって飛散するもの。飛距離は長くても2m以内。上気道炎症状を伴うウィルス感染症の多くや細菌性肺炎が代表的。
- e. 経口感染・・・病原体を経口的に摂取することにより感染を生じるもの。嘔吐・下痢を引き起こす食中毒や、寄生虫感染が代表的。
- f. 血液感染・・・血液に直接接触することにより感染が成立するもの。医療従事者による針刺し事故・飛散した血液の眼球への付着や、薬物中毒患者の注射器の使いまわしなどが原因となる。HBV・HCV・HIV等が代表的。
- g. 媒介動物性感染・・・動物・昆虫により伝播されるもの。蚊に媒介されるマラリア・日本脳炎、ダニやツツガムシに媒介されるリケッチアなどが代表的。
3.その他
内因性感染・・・自身が保有する常在菌・潜伏中の病原体が病原性を有することから、上記の外因性感染と区別されるもの。免疫能の低下により常在菌が病原性を持つことや潜伏中の病原体の再活性化が生じる日和見感染、抗生剤投与により腸管内のフローラが変化することにより生じる偽膜性大腸炎などの菌交代現象などが代表的。
感染経路が臨床上重要になる例として、院内感染が挙げられる。院内感染を引き起こす病原体の感染経路はほぼ空気感染・飛沫感染・接触感染・血液感染の4つに分けられる。空気感染では、患者に対して陰圧の個室管理を行い医療従事者が入室する際はN95マスクを装着する。また飛沫感染では、患者を個室管理し入室する際はサージカルマスクを着用するなど、接触感染ではMRSAやVREなどの薬剤耐性菌感染患者やCDI患者は個室管理し部屋に入室する際はガウンや手袋を着用し、処置後は流水で手洗いをすることなど、血液感染では針刺し事故防止のためリキャップの禁止や、使用済み針の即時廃棄など、個々の感染経路を把握したうえで、それに応じた必要十分の対策をとることが重要である。
(参考文献)infectious disease 7th edition p3673~3676 Gerald L. Mandell Churchill Livingstone
感染症専門医テキスト 第一部 解説編 社団法人 日本感染症学会
臨床ですぐ使える感染症対策エビデンス集 現場活用術
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