注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
夏のウィルス感染症
厚生労働省の感染症発生動向調査によると、夏に発生件数の多いウィルス感染症として、咽頭結膜熱、流行性角結膜炎、ヘルパンギーナ、手足口病、伝染性紅斑、無菌性髄膜炎があり、それぞれの症例報告数を、平成20年〜22年の3年間の統計でまとめると下表のようになる。1)
疾患 |
3年間の症例報告数(人) |
21−35週の割合 |
咽頭結膜炎 |
143,922 |
40% |
流行性角結膜炎 |
62,803 |
33% |
手足口病 |
364,784 |
65% |
ヘルパンギーナ |
328,584 |
95% |
伝染性紅斑 |
86,599 |
42% |
無菌性髄膜炎 |
2199 |
43% |
日本脳炎 |
10 |
10% |
・咽頭結膜炎、手足口病、ヘルパンギーナ、伝染性紅斑は小児科定点(全国に約3000カ所)、流行性角結膜炎は眼科定点(全国に約670カ所)、無菌性髄膜炎は基幹定点(全国に約640カ所)で計測
まず、これらの感染症が特に夏に流行する原因として、①夏特有の生活習慣②ウィルスの媒介物・感染経路の存在③ウィルスの特性が挙げられる。
①夏特有の生活習慣:2)子供に多いものとしてはプールや水遊びをする機会が増えることがあり、これが咽頭結膜熱や流行性角結膜炎の感染の契機となる。また大人においても汗をかいた時に感染者とタオルの使い回すことも接触感染の原因となる。
②ウィルスの感染経路や媒介物:日本脳炎は蚊によって媒介されるが夏は蚊が増殖するため日本脳炎の感染リスクもそれに従って高くなる。また大人にとっては子供と接する時間が長くなることは、小児に多いとされている感染症に大人が感染する原因として周囲の子供からの接触感染・飛沫感染が多いことからもリスクになると言える。
③ウィルスの特性:3)エンテロウィルスやアデノウィルスのように脂質エンベロープを持たないウィルスには多湿の条件下で安定するという性質がある。またそれらの至適温度は36~37℃である。これらのことより日本の夏の環境はエンテロウィルスやアデノウィルスの蔓延にほぼ適していると言え、ヘルパンギーナ・手足口病の流行の原因となると考えられる。
以上のことから、夏に流行する感染症を予防するには、ウィルスの特性については対策することは不可能であるが、①についてはプールの後には眼を洗う、タオルの共有を避ける、②についてはワクチンを接種することや蚊の繁殖しやすい環境を作らない、などの対策によって予防が可能であると考えられる。
<参考文献>
1) 国立感染症研究所ホームページ(http://www.nih.go.jp/niid/ja/)
2) Up to date: Epidemiology and clinical manifestations of adenovirus infection (last updated:9 13 2012)
3) Manual of CLINICAL MICROBIOLOGY 9TH EDITION
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