注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科 レポート
眼トキソプラズマ症について
◦眼トキソプラズマ症
トキソプラズマ症は偏性細胞内寄生虫Toxoplasma gondiiによる人獣共通感染症で、先天性感染と後天性感染とがある。眼の組織に至ればいずれにおいても眼病変が認められるが、先天性感染によるものが多い。先天性感染は出生時に症状を認めることもあるが、再活性化により数十年経過してからさらなる障害を生じることもある。後天性感染は免疫正常者においては通常無症候性に自然治癒するが、AIDS患者や免疫抑制療法を受けているような免疫不全者においては潜伏感染の再活性化や初感染にて急性トキソプラズマ症を起こしやすい。トキソプラズマ脳炎発症者の約10%は網膜炎も併発しおり、前駆症状としても重要である。
◦症状
視力障害・暗点・羞明・眼痛・流涙症を含むさまざまな症状が報告されている。黄斑や外眼筋の障害により、中心視野障害、眼振、斜視、輻輳障害も起こる。免疫正常者では大抵不顕性であるのに対し、免疫不全者においては炎症の鎮静化により一旦は視野が改善されるが、進行性であるため繰り返し網脈絡膜炎を生じる。先天性感染の再活性化による網脈絡膜炎は重症化しやすく、後天的な急性感染と比べると予後不良であるため、先天性感染が疑われる場合には定期的に眼科的検査を行うべきである。
◦検査・診断
典型的な特徴として広範な線維化を伴う網脈絡膜の変性を示し、眼底に境界不鮮明な黄白色の綿状斑が認められる。また、続発性の虹彩毛様体炎や眼圧上昇がみられることもある。先天性の病変は両側性で、黄斑病変を認めることが多く、瘢痕病変に再発がみられやすいという特徴がある。これに対して後天性の病変は一側性で、黄斑回避や瘢痕病変とは一致しない場所に病変が生じやすいという特徴がある。
一般に典型的な病変があり、かつIgG抗体価が陽性であれば診断の根拠となる。抗体産生はGoldmann-Witmer係数(感度60~85%特異度90%)を用いて表される。前眼房穿刺で局所的かつ特異的な抗体産生が確認されれば、炎症性反応の場所が眼であることを示す。しかし、患者の3分の2では最初に臨床症状が現れた時には特異的な抗体の産生がみられず、後に抗体が検出されることがある。検査の時期や使用する抗体分析の種類にもよるが、臨床的な診断が可能なのは60~90%とされるため、偽陰性の可能性や不正確な診断である可能性に注意が必要である。
◦治療
眼科的評価を十分に行ってから治療を行う。治療の対象は視力低下、黄斑または乳頭周囲の病変、視神経乳頭径以上の病変、多発する活動性のある病変、1カ月以上持続する活動性のある症状、最近の初感染による眼病変などである。Pyrimethamineとsulfadiazineの併用で、臨床的治療効果をみながら4~6週間投与するのが最も一般的である。TMP-SMXも治療効果としてはそれらの併用と同様の効果が得られてはいるが使用頻度としては少ない。また、Clindamycinも併用されることがある。病変が黄斑や視神経乳頭、乳頭周囲を障害している場合は全身へのcorticosteroids投与を行うことがある。患者によっては光凝固術、硝子体切除術、水晶体切除術が必要となる場合もある。再活性化が繰り返されるからこそ予防は大切で、TMP-SMXの予防投与で再燃率が24%→7%に減少したと報告がある。
【参考文献】
◦Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 7th EDITION
◦Harrison's Principles of Internal Medicine, 18th EDITION
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