注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
好酸球増加症の原因
好酸球増加症(eosinophilia)では、血液中に500/ml以上の好酸球が存在する。組織の好酸球増加では血中の血球数の上昇がない場合もある。好酸球増加症の原因としては寄生虫をはじめとする感染症、アレルギー、血液・腫瘍性疾患、膠原病、内分泌疾患など様々である。診断には、臓器・疾患群・合併している臨床症状(表1)と、好酸球増加の程度(表2)の2つのアプローチが有用である。好酸球増加の程度によるアプローチの例としては、喘息では通常好酸球が1500/mlを超えることはないが、Churg-Strauss症候群では1500/mlを超えるといったことが挙げられる。好酸球が1500/mlを超える状態をhypereosinophiliaといい、組織や臓器に障害を及ぼすことがある。血液中の好酸球増加ではアレルギー、感染、悪性腫瘍の頻度が高い。
感染症 |
寄生虫(糞線虫、鉤虫、フィラリア、回虫、条虫、旋毛虫、イヌ回虫、日本住血吸虫、肺吸虫、アニサキス) HIV、結核、ニューモシスティス、A群溶連菌、アスペルギルス、コクシジオイデス、HTLV |
アレルギー |
アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎、薬剤、花粉症、湿疹、好酸球性血管性浮腫、蕁麻疹 |
血液・腫瘍 |
好酸球増加症候群、慢性骨髄性白血病、急性好酸球性白血病、悪性リンパ腫、Sezary症候群、固形腫瘍、特発性好酸球増加症候群 |
自己免疫疾患 |
Churg-Strauss症候群、結節性多発性動脈炎、好酸球性筋膜炎、好酸球増加-筋痛症候群、特発性好酸球性滑膜炎、関節リウマチ |
皮膚疾患 |
天疱瘡、類天疱瘡、乾癬、好酸球性膿疱性毛嚢炎 |
呼吸器 |
PIE(好酸球性肺浸潤)症候群 |
消化器 |
好酸球性胃腸炎、潰瘍性大腸炎、Crohn病、膵炎 |
肉芽腫性疾患 |
Wegener肉芽腫症、サルコイドーシス、好酸球性肉芽腫症、木村病 |
内分泌 |
副腎不全、甲状腺機能亢進症 |
その他 |
アテローム塞栓症、原発性免疫不全症候群、家族性、放射線照射、摘脾、血液透析 |
(表1)
500-2000/ml |
2000-5000/ml |
>5000/ml |
アレルギー性鼻炎、アレルギー性喘息、蕁麻疹 食物アレルギー、副腎不全、肺好酸球増加症候群 固形腫瘍、鼻ポリープ |
内因性喘息、蠕虫、Churg-Strauss症候群 アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、HIV 血管新生物、好酸球性筋膜炎、薬物反応 |
好酸球増加-筋痛症候群、白血病 特発性好酸球増加症候群 好酸球性血管性浮腫 |
(表2)
アレルギー性疾患は上・下気道症状などの病歴と皮疹などの身体所見から鑑別が可能である。特に薬剤性のものは注意が必要で、ヨウ化物、アスピリン、サルファ剤、ニトロフラントイン、ペニシリン系薬、セファロスポリン系薬が主なものとして挙げられるが、他院での処方薬、市販薬に加え漢方やサプリメントなどを含めたあらゆる薬剤歴を確認することが重要である。アレルギー性鼻炎では、末梢血よりも鼻汁の好酸球増加が一般的である。若い女性で好酸球増加を伴う四肢末梢のnon-pitting edemaが見られた場合は好酸球性血管性浮腫を疑う。
感染症としては蠕虫などの寄生虫が知られている。鑑別には渡航歴、動物との接触、食事歴などの問診を行う。例えば糞線虫は東南アジア、南アフリカ、ブラジルが、フィラリアは東南アジア、アフリカ、南アメリカ、カリブ海地域が流行域である。イヌ回虫では汚染された土壌などを小児が口にすることがある。旋虫は豚肉、アニサキスは生魚などの摂取によって感染する。問診から寄生虫感染を疑えば、糞便検査や内視鏡による虫体、虫卵の確認によって確定する。糞便検査は感度が低く繰り返して行うことが重要であり、検出されない場合はELISAを含む免疫学的検査で抗体を同定する。糞線虫は慢性的な感染によってときに著しい好酸球増加を引き起こすため、除外しておくべきである。なお、ランブル鞭毛虫やトキソプラズマなどの単細胞原虫では一般に好酸球増加はきたさない。HIV感染や結核で好酸球増加をきたしうることには注意すべきであり、性習慣や結核患者との接触の有無を問診で確かめ、必要があればHIV抗体や喀痰の検査を行うことは重要である。アレルギー性気管支肺アスペルギルス症では肺浸潤をきたすことがあり、結核も含め胸部X線は有用である。
以上の疾患の可能性が低ければ血液・腫瘍疾患を考え、問診やリンパ節腫脹などの身体所見、白血球分画を含めた血算、画像での検索を行う。血液腫瘍に限らずさまざまな固形腫瘍で好酸球が増加することがあるため、発熱や体重減少だけでなくReview of systemをとるとよいと考えられる。血液腫瘍の確定診断には骨髄やリンパ節の生検が必要である。特発性好酸球増加症候群の診断は除外診断で行う。
自己免疫性の疾患では四肢の腫脹や紫斑などの身体所見、ANCAなどの血清学的検査が鑑別に有用である。
その他の好酸球増加症の原因となる疾患としては、副腎不全が重要である。脱力や色素沈着、体重減少などの症状から副腎不全を疑えば、ACTH刺激試験を行う。
参考文献
Peter F Weller, Approach to the patient with eosinophilia In:UpToDate, last updated 4/27/2011
HARRISON’S PRINCIPLES OF INTERNAL MEDICINE 18th edition
ワシントンマニュアル 第12版
岡田定, 誰も教えてくれなかった血算の読み方・考え方, 医学書院, 2011
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