注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだけ寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際には必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jpまで
豚の生食、あるいは加熱不十分な豚肉の摂取による
感染症の原因微生物を右記に示す。
その中のいくつかの詳細を下記に示す。
•Yersinia enterocolitica
十分に加熱していない保菌ブタより感染する。胃腸炎が最も多く、下痢の頻度は低い。成人では回腸末端炎となる。特別な治療を行わなくとも症状は一過性に経過し自然治癒する。
•Trichinosis
十分に加熱してない豚肉、生ソーセージから感染する。発熱、腹痛、下痢、眼瞼の浮腫、筋肉痛などが主な症状である。症状の強さは摂取した幼虫数に比例する。治療はメベンダゾールやアルベンダゾールの有効性が報告されている。
•Cysticercosis
嚢虫を含むブタの生肉の筋組織を摂取することにより感染するが、生肉の摂食よりは糞便中の虫卵が主な感染源である。悪心、嘔吐、満腹感、腹痛、下痢、便秘などの消化器症状を訴える程度で、一般的に軽微である。ガストログラフィンによる条虫駆虫を行う。虫体が患者腸管内で融解する治療薬は腸内で自家感染を起こし、有鉤嚢虫症を起こすので禁忌である。
•Salmonella
サルモネラ菌を保菌するドブネズミの糞で汚染された豚肉から経口感染する。症状は急性胃腸炎で潜伏期は12〜72時間で発熱または腹痛を伴い急激に発症。悪心、嘔吐、下痢(しぶり腹)など。脱水に対する対症療法が中心である。
•Campylobacter spp
ウシ、ブタ、ニワトリ、ヒツジ、ウマなどの主に腸管に生息し、本菌汚染された食肉から経口感染する。症状は平均3日で下痢、強く長く続く腹痛、発熱、全身倦怠感。対症療法のみで軽快する例が多い。
•Listeria
ブタの生肉や加熱不十分な食肉、生ハムなどから感染する。普通は軽度あるいは無症状のまま経過するが、妊婦や乳幼児、老人では髄膜炎や中枢神経系症状、敗血症を引き起こす。重傷の場合はペニシリン系、特にアンピシリンが有効で、他にゲンタマイシン、テトラサイクリン、ミノサイクリン等の併用が効果的である。
•Toxoplasmosis
生や調理不完全な食肉で感染する。多くは無症状に経過する。免疫が低下している場合、リンパ節炎、心筋炎、肺炎、脳炎を起こす場合がある。治療はビリメサミンとサルファモノメトキシンを併用する。妊娠中に初めてトキソプラズマに感染すると胎児に移行し先天性トキソプラズマ症になることがある。
•Hepatitis E virus
E型肝炎ウイルスに感染した生の豚やイノシシの肝臓を食べた際に感染する可能性がある。潜伏期間は平均で40日で、症状は腹痛による食欲不振、暗色尿、発熱、肝肥大、黄疸、不快感、吐き気などである。対症療法が中心である。
参考文献:
人獣共通感染症(Yersinia enterocolitica:P211,212、Trichinosis:P366~P373、Cysticercosis:P419~P422、Salmonella:P231~P235、Campylobacter spp:P215~P220、Listeria:P192~P194、Toxoplasmosis:P329~P331)
UP-TO-DATE(Hepaatitis E virus infection:2012/5/16)
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