日本における臨床医学教育において、たくさんの「知識」を学ぶのだが、「どう考えるのか」という考えるプロセスやロジックを教わることはほとんどない。
日本内科学会雑誌2011年12月号は肺炎特集である。気になる記載がたくさんあった。例えば、
「肺炎治療におけるステロイド薬の使用については、原則的に重症肺炎に鍵って論じられるべきであろう。重症肺炎は、acute lung injury/acute respiratory distress syndrome (ALI/ARDS)の原因として頻度が高い疾患の一つであり重症肺炎の多くはALI/ARDSの診断基準を満たす。このような症例においては、適切な抗菌薬に加えて、ステロイド薬の併用が有効である症例も少なからず経験される。これら重症肺炎におけるステロイド薬の役割は、抗炎症作用に基づくものであり、、、」
これは典型的な演繹法、、、炎症があるからそれを減じれば、、というロジックである。もちろん、これがアプライできる場合とできない場合があるので、本当はここで止まってはいけないのである。
「近年、Surviving sepsis campaign guidelineにおいてseptic shockに対して、相対的副腎不全の存在による、循環不全改善を目的とし、急性期少量、中等量のステロイド薬の使用が推奨された。これはseptic shockに対するステロイド薬使用についての考え方であるが、septic shockの60%程度にARDSがみられる事より、septic ARDSに対してもその効果が期待できる」
sepsis とseptic shockは異なる。ましてや重症肺炎とARDSも同義ではない。「何の話をしているのか」、を明らかにするのはサイエンスを語る上での基本中の基本である。加えると、SSCGではThe Surviving Sepsis Campaign suggests intravenous hydrocortisone be given only to adult septic shock patients after blood pressure is identified to be poorly responsive to fluid resuscitation and vasopressor therapy (Grade 2C).とあり、「suggest」とある。これはかなり弱い推奨であり、ステロイドを使うのが、現在のseptic shockの治療の「考え方」と断じることは難しい。
「遠藤らの検討によると敗血症性ARDSに対してエラスポールを使用した場合、エラスポール投与によりPaO2/FIO2 ratioが有意に改善し、好中球エラスターゼ値も有意に減少したとしている。肺炎に関しては、重症肺炎によるSTRS, ALI/ARDSに対してその効果が期待できるが、早期に使用することが重要としている。一方、海外の臨床試験では、ALI/ARDSに対するエラスポールの有用性が否定された。この結果は、日本で行われた結果を否定したものであるが、海外の試験では、重症例が多く含まれていたことが、このような相反する結果を招いた原因と考えられている。実際にわが国の臨床試験と同程度の重症度に限って解析すると、わが国の試験と同等の有用性が認められていることから(岩田注。PF ratioと好中球エラスターゼ値のことか)、肺障害進行の早期から本剤を使用することが必要であろう」
学術論文に商品名を使うことはおいておいても、アウトカムの設定やサブグループアナリシスの意味が吟味されていない。また、「重症肺炎」の話をしているのに、重症例が混じっていたからさがでなかったんだ、という自家撞着も見られる。繰り返すが、肺炎とARDSは同義ではない。
以上、河合 p3557より
「実際、全国規模の研究会での調査でも、ほとんどのわが国の医師が、肺炎診療においてCRPをなんらかの参考にしているという事実も改めて明らかとなっており、わが国に実際の肺炎診療現場におけるCRPの重要性を反映したものと言えるだろう」
関、朝野 p3522より
「なんらかの参考」と重要性の反映は別物である。それに、医療・医学は多数決ではない。風邪に抗菌薬を出している医師が多いという理由でそのプラクティスは正当化されないし、ましてやよく出されている抗菌薬が妥当な抗菌薬であるという根拠はまったくない(たぶん、そうではない)。
ぼくはいろいろな意見があるのは良いことだと思う。異論も拝聴したい。しかし、その背後にある論拠がしっかりしていなければ、議論にすらならない。なぜ、自分がそういう考えになっているのかを内省し、言語化し、他者に説明できるような訓練を、今後はもっと医学生や研修医に求めていかねばならないと思う。「私はこう考える」という本もよいが、「私は何故こう考えるのか」という本がもっとあってよいと思う。
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