吉岡斉先生の「原子力の社会史」がとても面白い。普通は読後に感想を書くのだが、いろいろ思う所あって逐次読みながらコメントしたい。ところで、吉岡先生とは科学技術の「通史」をいっしょに作りました。日本感染症界の歴史をまとめたもので、関係者には役に立つと思います。図書館か何かで読んでみてください。
まず、まえがきに感動しました。
筆者はそうした鳥瞰図を、批判的な歴史家の視点から描こうと思う。ここで筆者のいう「批判的」とは、原子力開発利用の推進当事者に対して「非共感的」な立場をとることを意味する。
(中略)
もちろん「非共感的」な立場というのは、「敵対的」な立場とは基本的に異なる。「まずは疑ってかかる」というのが、原子力開発利用に対して歴史研究者がとるべき基本的姿勢であろうが、詮索の結果として逆に疑惑が解消されたり、推進当事者の潔白が証明されることも十分ありうるのである。あらかじめ研究対象に対して敵対的感情をもってのぞむことを、歴史家は避けなければならない。
こういう押さえが利いた、しかし決然たるコメントを、ほとんどの原発関係の書物やサイトは持っていない。
さて、本書を読んでいて遅ればせながら気がついたのだが、日本にある52基の原発のうち、16基は1980年代に、さらに15基が1990年代に作られている。日本の電力使用量は増加しているとよくいわれるが、1995年くらいから頭打ちになっている。人口減少でこの傾向は増すかもしれない。
http://www.fepc.or.jp/present/jigyou/japan/index.html
今、原発がたくさん停止していてもちゃんと電気を使える理由の説明は、多くの原発は1990年代以前には「なかった」ことに帰することもできるかもしれない。
コメント
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