微生物名は病名ではない。プロでもよく混乱している。アスペルギルスは病気ではない。単なる微生物だ。だから、安易に肺アスペルギルス症とは呼ばない方がよい。何の話か分からなくなるからだ。
BSL 感染症内科レポート(Aspergillomaについて)
Aspergillosisは宿主の免疫の状態や肺の状態によって、様々な感染形態、アレルギーを引き起こす疾患である。病態から以下の4つに分類される。
① 侵襲性:侵襲性アスペルギルス症は高度な免疫不全状態にある患者に主に起こる。具体的には好中球減少が遷延していたり、強力な免疫抑制薬や抗癌剤を投与されている場合である。治療はVRCZ(Voriconazole)など抗真菌薬投与を行う。
② アレルギー性:アレルギー性気管支肺アスペルギルス症はアスペルギルスに対する過敏反応で、アトピー、喘息、嚢胞性線維症がある患者に生じることが多い。治療はアレルギー原因物質の除去、ステロイドの投与である。
③ 慢性壊死性:慢性壊死性アスペルギルス症は慢性に経過するアスペルギルス症のうち、次の ①~⑤ をすべて満たす場合である。① 下気道症状を有する、② 新たな画像所見がある、③ 血清または真菌学的、または病理組織学的にアスペルギルス感染症が示される、④ 一般細菌感染症などの疾患で十分説明できない、⑤ 炎症反応の亢進がある。基礎疾患は肺囊胞や気腫性変化など肺に器質的変化を有するだけの場合から、糖尿病、慢性腎不全、膠原病、長期のステロイド薬の投与による免疫抑制状態など様々である。治療はMCFG(Micafungin)やVRCZなどの抗真菌薬の投与である。
④ Aspergilloma :Aspergillomaは結核、肺気腫、気管支拡張症、塵肺、肺嚢胞症、サルコイドーシスなどの先行する慢性肺疾患または胸部手術後に肺の構造が破壊されたところにアスペルギルスが生着し、菌塊(fungus ball)を作った状態である。菌塊は菌糸体、炎症細胞、フィブリン、粘液、壊死した組織片から成る。Aspergillomaは上記に述べたような「定着状態」だけでなく、「侵襲性」や「アレルギー性」と混在していることが多く完全に独立した疾患ではない。以下、Aspergillomaについて述べていく。
■臨床症状:咳嗽、喀痰、血痰、喀血、呼吸困難 、発熱などが認められることもあるが、多くの症例ではこうした症状が現れにくいため画像診断で発見される。
■診断:画像診断(胸部X線や胸部CTで空洞病変内に菌球を認める又は菌球は認めないが肥厚した空洞壁、胸膜の肥厚を認める)で疑い、血清診断でアスペルギルス抗体を測定する。画像診断で類似した異常陰影を示す腫瘍性病変、膿瘍、包虫嚢胞、ウェゲナー肉芽腫などとの鑑別が必要である。確定診断は、喀痰、気管内採痰、BALFなどから分離培養、TBLBや経皮肺吸引生検で菌糸を確認することである。ただし、喀痰培養ではたったの50%しか陽性にならないし、血清IgG抗体はほとんどの場合陽性になるがステロイド療法による免疫抑制状態の患者では陰性になることもある。
■治療
症状がなければ経過観察となるが、喀血が見られたり全身症状が強い場合には治療を考慮する。
・外科的治療(根治を目的とする):肺切除
*高齢で手術によるリスクの方が高い、肺病変によって呼吸機能が低下していて予備能不足である、胸膜の強い癒着があるなど手術ができない場合は内科的治療を行う。
・抗真菌薬療法:無作為化臨床比較試験により有効性が検証された薬剤はないが、侵襲性アスペルギルス症に有効であることからVRCZが有効と考えられている。また、MCFGは多施設前向き非対照臨床試験で有効率が55%との報告がある(ただし、22例中)。さらに、ITCZ(Itraconazole)はカプセル剤が200~400㎎/day使用されているが、日本における保険適用用量は最大で200㎎/dayとなっている。ITCZはカプセル剤よりも内用液や注射薬の方が十分な血中濃度が得られるが、後者は保険適用外であるので使用するのは難しいと考えられる。
参考文献
1.EUROPEAN RESPIRATORY REVIEW Pulmonary aspergillosis: a clinical review 2011;20;121
2.深在性真菌症ガイドライン2007 3.レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版 医学書院
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