うん、これは実によくできている。ほとんど満点のできだ。フェローでもここまでのできにできるかどうか。素晴らしい!
Acinetobacter の臨床的な特徴について
Acinetobacterは、ブドウ糖非発酵の好気性グラム陰性桿菌である。
Acinetobacterには特異的感染臓器はないが、臨床的には院内感染、特に重症患者の人工呼吸器関連肺炎や菌血症で問題となることが多い。その他、稀であるが術後創部感染症、髄膜炎、尿路感染なども発症することがある。「高齢」「重篤な基礎疾患の存在」「免疫不全や広範な外傷」「血管内カテーテル挿入」「人工呼吸管理」「長期入院や抗菌薬の前投与」などが発症の危険因子と考えられている。
日本では稀である市中感染症も、主にオーストラリアの北部熱帯地域やアジアの一部の地域(香港、台湾、シンガポールなど)から報告されている。近年のトピックでは、イラク戦争の負傷兵や、2004年の東南アジアの津波により重傷外傷を受けた患者が、A.baumanniiを起因菌とする侵襲性感染症をきたした例が報告されている。
診断における注意点としては、グラム染色でクリスタルバイオレットに染色される傾向があり、陽性球菌と誤って同定されることがある。また、環境中からはほぼ100%同定され、ヒトの皮膚や喀痰でも生育可能であり、常在菌化する。院内では、気管切開部や創傷部だけでなく、ドアノブやカーテンにも付着している場合があり、無菌的検体(血液、髄液など)からの検出でない場合には汚染菌、定着菌、起因菌のいずれであるかの判断が重要である。対象臓器の感染症を示唆する臨床的・画像的所見の有無や、全身的な重症度、すでに経験的治療を開始している場合はその治療に対する臨床的な反応、検体のグラム染色所見などを検討して総合的に判断することが必要になる。
Acinetobacterの治療の第一選択薬はcarbapenems と考えられているが、比較的軽症な例では、感受性を有するその他の薬剤(cephalosporins、 ampicillin-sulbactamなど)も使用出来る。しかし、昨今Acinetobacterの耐性菌が注目を浴びてきており、中でもA. baumannii が多岐に渡る薬剤に対し耐性を示しており、臨床的重要性が高い。諸外国においてはcarbapenems耐性A.baumanniiやMDR(多剤耐性)-A.baumanniiの分離の頻度の増加が問題となっている。米国でのカルバペネム耐性率は33.1%と報告されており、さらにアジア太平洋地域(日本は対象外)では42.3%がメロペネムあるいはイミペネムに耐性あるいは中間耐性であったと報告されている。一方、日本で2006年に行われたAcinetobacter spp.110株の感受性全国サーベイランスでは、カルバペネム耐性あるいは中間耐性株の割合は3.6%であったと報告されている。耐性の拡大が懸念される諸国では第一選択薬、もしくは経験的治療薬はcarbapenemsとされるが、日本ではこの推奨は必ずしも当てはまらない可能性があり、適切な培養検体の採取による感受性の同定と、Antibiogramの作成、活用が重要である。 神戸大学病院では2010年の上半期で報告されてるA.baumanmii 37例での、quinolones、carbapenems、aminoglycosidesの感受性は100%であり、耐性菌は検出されていなかった。日本では初めて耐性菌が分離されたのは2009年の福岡大学病院で、それまで日本では見つかっておらず海外から持ち込まれたと考えられている。耐性機序もいまだ不明な点が多いが、今後もさらなる臨床研究を進めていく必要があるようだ。
参考文献
・ Mandell, Douglas and Bennett’s principles and practice of infections deseases 7th edition 2881-2884
・ 神戸大学 感染制御部 2010年度前期 主要菌腫のアンチバイオグラム
・ Munoz-Price LS ,Weinstein RA. Acinetobacter infection. N Engl J Med. 2008 ; 358 : 1271-81
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