徳田安春先生のGeneralist Masters シリーズの一冊です。買ってしばらく机の上にあったのですが、本日ようやく読めました。
頚静脈圧とか最近とんと測らなくなりましたが、むかしやったなあ(やらされたなあ)。日野原先生時代にはバイタルサインという用語が教科書になかったとか、オスラー先生の打診など興味深いエピソードも載っています。徳田先生の臨床経験とRational Clinical Examシリーズの文献的情報がうまくミックスされています。読破はしやすいので、研修医は教科書として、指導医は復習として読むとよいと思います。
さて、本書に限らず(僕の本でもよくあるけど)、何かの書評に「この本に書いてある内容はもう俺は知っている。だからこの本はだめ」と書いてあるものを目にします。
はいはい、そうですか。素晴らしい叡知をお持ちで、何よりです。とご本人には流せばよいのですが。
これは「書評」と「感想文」の違いを理解していない言葉なのですね。読者の知識構造や知識量は千差万別。ターゲット・オーディエンスに対して適切なメッセージが適切な形で流されているか、が重要なのですね。書評をその道の「エキスパート」に書かせると、その辺の機微を理解しないで、「自分目線で」「感想文」を俺様丸出しで書いてしまう人がいます。こういう人に書評をお願いするとなかなかつらいので、気をつけなくてはなりません。アマゾンに至っては誰でも書きたい放題なので、もう仕様がないですが。
あと、これもよくある誤謬ですが、専門用語はあくまでも恣意性に基づいて決められたコンセンサスに過ぎません。一つの用語があるコミュニティーでコンセンサスを得て、それが「正しい言葉」と言われるのです。しかしその「正しさ」には原理的な根拠があるわけではありません。また、学会などで決めた言葉も命を失って使われなくなってしまうこともままありまして、まさに言葉は命です。疾患や病態の概念も同様です。医師は専門用語をよく用いてこのヘンテコな論争に巻き込まれやすいので、構造主義とか構造構成主義を学んで(まあ、学ばなくてもできるかもしれないが)さらっと流すスキルを持たねばならないわけですね。
昨年の末にこの書籍を読みましたが、多くの領域の内科(いわゆる総合内科のような)をみることから離れてしまった者が再びその状況に戻される際にとても勉強になる本であります。一部の内容はとても懐かしく感じ、そして一部の内容は初めて知ったこともありました。そして何よりも良かったのは、飛行機に乗っている時間で読みきることができる分量であることです。繰り返し読み、自分の臨床への肥やしにしようと思う本です。
投稿情報: 本田仁 | 2011/01/06 09:28