鼻咽頭サンプルの採取の仕方。10−15秒とは結構大変ですね。モデルの女性の方、ご苦労様でした(けっこうつらかったでしょう)。
http://content.nejm.org/cgi/content/full/NEJMe0903992/DC1
グーグルを使ったマップも出ています。これも数が多くなりすぎて、あまり意味をなさなくなってしまいましたが、、、
http://www.healthmap.org/nejm/
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鼻咽頭サンプルの採取の仕方。10−15秒とは結構大変ですね。モデルの女性の方、ご苦労様でした(けっこうつらかったでしょう)。
http://content.nejm.org/cgi/content/full/NEJMe0903992/DC1
グーグルを使ったマップも出ています。これも数が多くなりすぎて、あまり意味をなさなくなってしまいましたが、、、
http://www.healthmap.org/nejm/
投稿情報: 09:30 カテゴリー: 新型インフルエンザ | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)
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NEJMの新連載(?)です。議論の余地のある話題で、それぞれ専門家の異なる見解から投票しましょう、というものです。答えは一つとは限らない、、、、
さて、今回のお題はC型肝炎です。本当、肝炎のマネジメントってよく分からない、という事実をよく表現していると思います。
投稿情報: 06:46 カテゴリー: 感染症 | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)
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スペイン風邪の話をしたので、そのときのフランス首相、クレマンソーの言葉
A man who has to be convinced before he acts is not a man of action. You must act as you breathe.
納得しなければ行動できない人は、行動力のある人ではない
呼吸をするように行動すべきだ。
投稿情報: 13:23 カテゴリー: 感染症 | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)
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雑誌のインタビュー記事を校正していてびっくりするのは、自分の意図していない内容がいとも簡単に折り込まれていることです。まあ、ある程度は仕方がないとはいえ、ものすごいフィクション性を感じます。
「大学への異動にいっぺんの迷いもためらいもなかった、、、」
いやいや、迷いまくり、ためらいまくりましたよ。
「壮絶な日々の中で貴重な指針をつかんだ満足感が、笑顔の端々ににじむ、、、」
べつに壮絶な日々なんて送ってないし、満足感なんて一度も抱いたことはないなあ。ぼくは飢えて、乾いています。今の自分に常にとても不満です。
ぼくの周りには、「ぼくはちゃんとやっています」と声高に主張する人たちはいます。が、そういう人間に「ちゃんとやっている人間」は一人もいない。
「ぼくだって努力しているんです」とも言われます。でも、だれだってみんな努力をしているのです。自分なりにベストを尽くしているのです。ベストを尽くすのは前提であって目的ではないのです。
すくなくとも、プロは一所懸命やっていることを自己正当化の根拠にしてはいけないと思います。「ぼくだって誰よりも一所懸命練習しているんです」と打率の上がらない打者は口が裂けても言わないはずです。
ちゃんとやっている人は、今の自分に絶対に満足できない、乾いた、飢えた人たちなのだから。満足した瞬間に、大きなものが失われてしまうのだから、、、これは根源的なパラドックスなのです。
結局の所、人間とは自分の耳に入れたい情報しか耳に入れない存在なのでしょう。逆にリスク下においては、そのような聞き手の恣意性を十分に勘案しておかないとうまくいかないのでしょう。「ちゃんといったつもりです」では通用しないのです。
「19時までには参ることができるよう、最善を尽くします」
「じゃあ、19時には絶対にお見えになるのですね」
「いえいえ、そうは言いませんでした。、、、最善を尽くす、といったのです」
これは最近経験したこと。本当に、人間とは自分の都合の良いようにしか言葉を解釈しないようですね。
ある新聞社の取材
「先生は、新型インフルエンザについて国民はどのくらいリスクの意識を持っておいた方がよいと思いますか」
「人の意識は、その人が決める問題だと思います」
「、、、、」
僕たちはリスクについて、情報を開示することができるでしょう。何が怖くて何が怖くないのか説明することもできるでしょう。でも、今あるリスクをどうとらえるべきか。それは各人各様であり、メディアや国や専門家が、「このくらい怖がりなさい」と上から目線で規定すべきものではないはずです。
なるほど、自動車事故を怖がって家から一歩も出ないでひきこもることは極端に不健全な態度でしょう。家からででてくれば、よい。自動車事故などありえない、とシートベルトもせず、脇見運転で70kmオーバーも極端でしょう。もうすこしリスク意識をもったらよい。けれども、その間は大抵グレーゾーン。自動車事故と日常生活の利便性はトレードオフの関係にあり、トレードオフの関係にしかないのです。それが、リスクとつきあっていく基本中の基本なのです。だから、リスク0%かリスク100%を目指さない限り、その間のどの辺に線を引っ張るかは、各人で決めるしかないのです。僕たちにできるのはその判断の根拠になる情報を提供するだけ。どう飲み込むかは、その人次第。その時に大切になるのが、言葉に対する感受性。
自分の感受性くらい、自分で守れ、ばかものよ
茨木のり子
投稿情報: 13:21 カテゴリー: 新型インフルエンザ | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)
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こんなときだからこそ、本を読んでおきたい。新型インフルとはなんの関係もない本がよいです。できれば、言葉の美しさが再確認できる本ならなおさらよいでしょう。言葉に対する感受性を高めておかないと、こういうときは乗り切ることができないのです。
待ちに待ったチャンドラーの村上訳がいつの間にか発売されていて、本屋さんで偶然気がつきました。偶然の邂逅って素晴らしいですね。
村上春樹はどちらかというと直訳調、英語が透けて見えるような翻訳をします(彼の小説も英語的ですが)。今回はさらに、わざと木訥な訳語を使って異化作用を狙っているような気すらします。気のせいかも知れませんが。
前作、ロング・グッドバイの装丁が素晴らしいと(軽装版じゃない奴)感心したのですが、今回はハードボイルドの通俗的なたばこの煙でちょっとがっかり(内装はきれいです)。本も見た目が大事です。そういえば、最近出した感染症診療Q&Aも通俗的な教科書的な装丁で、そこが気に入りませんでした。中身はそんなに悪くないのに、、、手に取る気が、しない。よだれのでない装丁なのです。
投稿情報: 09:52 カテゴリー: 本、映画、その他 | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)
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アルフレッド・W・クロスビーの「史上最悪のインフルエンザ 忘れられたパンデミック」は西村秀一氏の美しい訳文もあって重厚な素晴らしい内容の本です。残念ながらいろいろな現実的制約のなかでこの本を精読する余裕は今はないので、移動時間を利用して、ざっと流し読みしました。
2000万から4000万という途方もない数の命をたった1年足らずで奪ったspanish flu。実際には世界中で猛威をふるっていたのでスペインには申し訳ないのですが、しかし第一次世界大戦でやはり大量の命が失われていた世界にとって、命はあまりにも軽く、死はあまりにも日常的だったようです。だから、スペインかぜが世界にもたらした影響はその悲惨なエピソードの数々にもかかわらず、「軽い」ものだったのではないかとクロスビーは指摘します。第一次世界大戦というと「西部戦線異状なし」という胸にしみいる映画を思い出します。確かに当時は人の命はずっと今より軽かったのでしょう。カンボジアのような途上国に行くと、そこでは人の命がずっと日本やアメリカよりも軽いことが実感されるように、死に身近な環境であればあるほど、死は軽くなっていきます。
特に興味深かったのが、パリ和平条約におけるウイルソン米国大統領の葛藤とインフルエンザが外交上もたらした影響でした。今では考えられないことですが、1910年代のアメリカは世界的には「外交下手」で有名で、英国やフランスにいいようにあしらわれていたようです。司馬遼太郎の小説で大久保利通がやはり外交で大いに苦労したエピソードを紹介したことがありましたが(タイトル失念)、アメリカも又、冷静になって考えてみれば世界の新興国のひとつで、発展途上だったのでした。ウイルソンは国内のとりまとめに苦労し、外交に苦労し、そしてインフルエンザに苦しめられたのでした。
また、スコット・F・フィッツジェラルドが第一次世界大戦に従軍したのは有名ですが、彼の小説「楽園のこちら側 、This side of paradise」にでてくるダーシー神父はのモデル、ウェイ神父はスペインかぜで命を落としていたのでした。さらにおどろくことに、ヘミングウェイが従軍していた時ミラノで知り合った女性、アグネス・フォン・クロウスキーもインフルエンザで命を落としたのでした。クロウスキーはあの「武器よさらば」のキャサリン・バークレーのモデルだったのでした。なんという驚きでしょう。
西村氏のあとがきも秀逸です。学ぶところのおおい本書の、日本語版への序文にはこう書いてありました。アメリカの公衆衛生関係者のあいだで流行っているジョーク。
「19世紀のあとには20世紀が続いたけど、20世紀のあとに続くのは何かわかるかい?・・・・19世紀さ」
今回の新型インフルエンザの問題でぼくが新聞記者やテレビに聞かれる頻出質問があります。
「今回の国・政府の対応についてどう思いますか」
ぼくはそれを語る立場にはないし、あまり語る気もありません。彼らが一所懸命でやっているか。もちろんやっているでしょう。使命感に燃えているか?もちろんです。勇気を持ってやっているか。相当な覚悟を持って取り組んでいるはずです。心も体もぼろぼろにすり減らしているはずです。彼らのプラン、思考、アクションは妥当であるか?それをほんとうに知るには、あと数年を要するでしょう。
今の段階で言えるのは、総じて、ぼくは国や自治体(ここでは神戸市)の対応に満足している、ということです。彼らは本当によくやっていると思う。決意を持って仕事に取り組み、勇気を持って事に取り組んでいる。
決意と勇気
思えば、これこそが日本の感染症界に決定的に欠如した問題点なのでした。日本の感染症界は世界から見ると20年は取り残されていますが、それは技術や知識の問題というよりは、決意と勇気の欠如なのでした。今の問題点を直視し、それを自分の問題として受け止め、逃げずに取り組む決意と勇気が行政にも学術界にも医学会にも製薬業界にも足りないのでした。「ぼくではない、誰かの問題」にされてしまっているのです。
去年、厚労省の役人といろいろ話をしましたが、90% 以上の人たちはこの「ぼくではない誰かの問題」病にかかっていて、真剣に我が事としてぼくの話を聞いてくれませんでした。結核感染症課に行くと、「それは別の○○課の問題」といわれ、○○課に行くと××課に行けと言われ、××課ではそれには担当者がいない、などと言われたのでした。彼らの目は腐った魚のように濁っており、なるほど超過勤務で肉体が疲れている(国会答弁の原稿書き?)ことは理解しましたが、そこに崇高な精神や勇気をかけらほども見つけることはできませんでした。ぼくは彼らに心底失望し、がっかりしたものでした。
地方自治体も似たようなものでした。千葉県で麻疹が流行した時、抜本対策を提案した(「やってください」という要望ではなく、「いっしょにやろう」といったのです)とき、担当者は「となりの茨城県でもやっていないのに、どうして私たちが」と言ったのでした。千葉県では麻疹は毎年のように流行していましたが、その県の感染症担当者にとってはそれは「ぼくではない誰かの問題」なのでした。2008年、神戸大学での麻疹対策で一番最初にやったのは、「これは僕たちの問題です」と全てのひとに納得してもらうことでした。
でも、新型インフルエンザはあからさまに今の問題で、二年後に別の部署に異動する人たちにとってもとてもとてもさらっと流せる問題ではありません。あまりに圧倒的な問題で、「ぼくには関係ありません」とも言いづらい。海外は緊張しており、国内も緊張している。インターネットの普及も一因でしょう。CDCやWHOがどのように考え、どう判断し、どう動いているか、われわれのような市井の人間でもすぐに分かります。数十年前とちがい「日本だけが世界と違う」ことに寛容ではない社会なのです。
やれば、できる
条件さえ整えば、日本人も決意や勇気を持って事に取り組むことはできるようです。なんでもかんでも「日本独特の文化や考え方」に転嫁することで逃げ回ることはできず、その必要もないことは分かります。願わくば、この、今の気持ちを失わないように、その他の問題についても取り組んでいきたいということです。また、「ぼくではない誰かの問題」なんて言い出さないようにしてほしい。
さて、ぼくたちは最低数ヶ月、あるいは数年のスパンでこの問題とやり合わないといけないかも知れません。張り切りすぎると燃え尽きます。疲れ切ったボクサーは一度腰を下ろしてしまうと立ち上がるのが苦痛で仕方がありません。今は使命感と高揚感がわれわれを突き動かしてくれますが、使命感と高揚感だけではいつまでもうごけるものではありません。休息できる時に休息しましょう。笑える時は笑顔を見せましょう。眠れる時は眠りましょう。深刻で張り詰めて、ヒステリックな声ばかりに耳を傾けず、時には美しいささやき声にも耳を傾けましょう。あと数ヶ月経っても、数年経っても、この努力が続けられるように。
投稿情報: 10:31 カテゴリー: 新型インフルエンザ | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (1)
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改訂版です。どんどん変わるかも知れません。ただし、これは未知の疾患に対するマニュアルなので、このマニュアルが絶対的な正当性を保障したり主張したりするものではありませんし、副作用など患者に対する有害事象のリスクが皆無というわけでもありません。使用に際してはくれぐれもご注意ください。
投稿情報: 18:56 カテゴリー: 新型インフルエンザ | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)
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神戸大学病院のマニュアルです。感染制御部の阿部泰尚先生が中心になって作成されました。まだ暫定版なので今後変更はあるかと思いますが、文字情報をアップしておきます。
新型インフルエンザ感染対策・診断・治療マニュアル
平成21年4月28日改定
Ⅰ 感染対策マニュアル
1. 感染経路
現時点では, 新型インフルエンザの感染経路について不明なところが多く,季節性インフルエンザの感染経路を参考に示す.
1.1 季節性,新型インフルエンザの感染経路
季節性インフルエンザの潜伏期間は1-3日間で, 感染者は発症1日前から,発症後3-5日目まで感染性を持つとされる.子供の場合は7日目まで感染性を持つとされる.
季節性インフルエンザの主な感染経路は飛沫であるが,粘膜・結膜への直接的な接触や,環境を介する間接的接触も感染経路となりうる.また,エアロゾルが発生しうる処置(気管内挿管や気管内吸引・ネブライザー・気管支鏡検査など)を行った場合の空気感染の可能性も示唆されている.
1.2 新型インフルエンザの感染経路
今回発生した新型インフルエンザの潜伏期間は現時点では不明であるが, 潜伏期間は長い場合で7日-10日と想定され, 感染者は発症1日前より発症後7日目まで感染性を持つと考えられている .
新型インフルエンザの感染経路は現時点で不明であるが,感染経路もしくは毒性が判明するまでは,飛沫,接触,空気の全ての感染経路を想定しておく必要がある.
2. 感染対策(附録図参照)
2.1 感染対策の種類
2.1.1 標準予防策
特定の病原体,もしくは診断の有無にかかわらず,全ての患者に対して全ての職員が行うべき感染予防策である.患者の血液・体液(汗を除く)・分泌物・排泄物・粘膜に対して適応され,曝露が予想されるときには適切に個人防護具(PPE)を使用し,適切に手指衛生を行う.
標準予防策には以下のことが含まれる.
① 咳,鼻水,くしゃみを伴う患者の診療,ケアに当たる場合医療従事者は、手袋,サージカルマスク,ゴーグルを着用する.
② 患者と接する前後,手袋を外した後には手指衛生を行う.手指衛生は流水による手洗いと擦式アルコールによる手指消毒の2種類があるが,患者の排泄物を取り扱った後や目に見える汚染があるときには,必ず液体石鹸と流水による手洗いを行う.
以下に述べる感染経路別予防策(接触,飛沫,空気)は全て標準予防策に上乗せして行う.
2.1.2 接触予防策
患者との直接,間接的(患者周囲の医療器具や環境)接触により容易に感染することが知られている病原体に罹患している患者に対して行う感染予防策.
① 患者は個室隔離することが望ましい.難しければコホート隔離も検討する.
② 入室前にPPEを装着し,退室前に処置した患者の室内でPPEを脱ぎ廃棄する.
③ 環境整備を適切に行う
④ 患者の移動を制限する
2.1.3 飛沫予防策
飛沫によって感染する病原体に対して適応される.
① 患者は個室隔離することが望ましい.難しければコホート隔離も検討する.
② やむをえず,他の疾患の患者と同室で管理する場合は,ベッド間の間隔を2m以上開け,必ずカーテンを引いておく.
③ 患者の1m以内に接近する可能性がある場合には,サージカルマスクを着用する.
2.1.4空気予防策
飛沫核が空気中に飛散することによって感染を生じる病原体による感染.元来,結核,麻疹,水痘のみを対象とされてきたが,近年SARSやインフルエンザでも稀に空気感染が成立することが知られている.
① 患者を陰圧個室(陰圧個室には緩衝エリアとしての前室を設ける)に隔離する
② 前室に入室する前にN95マスクを着用し,前室で必要なPPEを着用する.退室前に室内でPPEを廃棄してよいが,N95マスクは退室後(前室の外)で外す.
③ 患者の移動は基本的に禁止.やむを得ず室外に出すときには患者にサージカルマスクを着用させる.
2.2 新型インフルエンザの感染対策
2.2.1 封じ込めの段階(第3段階感染拡大期まで)
患者と1m以内,あるいは密室で診察,処置を行う場合については,標準予防策に加えて,接触,飛沫,空気感染予防策の全てを行う.
但し,季節性インフルエンザの感染経路は飛沫,接触が主な感染経路と考えられており,空気感染が起こるのは極めて例外的な事象であると考えられるため,患者と1m以上離れていて,密室でない場合についてはサージカルマスク着用でも十分と考えられる.
また,エアロゾルを発生する可能性のある処置(気管内挿管や気管内吸引・ネブライ
ザー・気管支鏡検査など)を行う際は空気予防策を追加する.
2.2.2 パンデミック期(第3段階蔓延期)
新型インフルエンザの詳細が解明されるまでは、患者と1m以内,あるいは密室で診察,処置を行う場合については,封じ込めの段階と同じ接触,飛沫,空気感染予防策の全てを行う.その他の場合は標準予防策+接触,飛沫予防策で対応する(予定).
Ⅱ. 診断・治療マニュアル
新型インフルエンザウイルスは現時点で出現していない.よって以下の項目はWHO, 厚生労働省等より新たなガイドラインが示された場合, 随時更新することを前提に作成している.
新型インフルエンザ発生後の診断方法・治療・曝露後予防の適応は, 発生段階もしくは抗ウイルス薬の供給量によって異なってくる.
ここではWHOのフェーズ4, 発生段階感染拡大期までとフェーズ5以降, 蔓延期以降に分けて述べる.
1.1 ワクチン接種
現段階では新型インフルエンザに有効なインフルエンザワクチンは存在しない. 但し,従来型の季節性インフルエンザが同時に流行していると判断された場合については, 従来の季節性インフルエンザワクチンの職員への再接種も検討する.
1.2 臨床症状
臨床症状は不明であるが, 季節性インフルエンザと似た症状(発熱, 咽頭痛, 呼吸器症状(咳, 呼吸困難等),下痢, 嘔吐)を呈する可能性が高いと考えられる.新型インフルエンザに対して誰も免疫を持たないため, 通常の季節性インフルエンザに比べ肺炎等を合併する患者が増える可能性や, A/H5N1のように肺炎やARDSを合併する重症例が出現する可能性も念頭に置いておく.
1.3 患者の振り分け及び診断
新型インフルエンザ発生後,初期には症例定義を用いた患者の振り分けを行い, 疑い患者に対しては保健所との連携のもと検査を行う.
フェーズが進行した場合, 全例に対する病原体別の患者の振り分けはほぼ不可能となるため重症度による患者の振り分けがより重要になる.
1.3.1 早期(WHOフェーズ4まで, 発生段階第3段階感染拡大期まで)
この段階では新型インフルエンザの患者数は少なく, 罹患するリスクのある患者は限定されている.よって疑い例は海外(流行地域)から帰国した患者, 感染患者もしくは疑い患者と接触があった者に限定される.
但し, 上記の患者および接触者のサーベイランスで網羅しきれるかどうかは不明で, この段階から発熱患者, 咽頭痛, 呼吸器症状(咳, 呼吸困難, 等)を呈した患者, 原因不明の肺炎や, 呼吸困難を呈した患者, もしくは原因不明の死亡例も必要に応じて疑い症例として扱う必要がある.
新型インフルエンザ患者もしくは疑いの患者と, それ以外の患者の動線を分けるため, この段階で外来におけるトリアージを開始する.
* 東京都新型インフルエンザ対応マニュアルでは新型インフルエンザ要観察例と定義しているが, この段階で発症患者とのつながり以外でトリアージを行うことは現実的には困難と考える.
1.3.1.1トリアージの方法
38℃以上の発熱があり, 咽頭痛・咳・呼吸困難のうちの何れかの症状を呈し
+下記のうち何れかの条件を満たす.
新型インフルエンザ流行国, もしくは発生地域への渡航歴
もしくは
新型インフルエンザの確定例と濃厚な接触のある者(医療従事者等)
上記の条件を満たす患者を疑い例と定義し, トリアージ室に移動させた後, 担当医師が症例定義に基づいた問診と診察を行う.
[現時点での症例定義]
接触:確定及び疑い患者の約2m以内に十分な防御なしにいたこと.
急性呼吸器症状:鼻汁または鼻閉, 咽頭痛, 咳のうち少なくとも2つを満たすこと.
(神戸市保健所の症例定義を一部改変)
問診で症例定義①を満たした者は新型インフルエンザ疑い例となる。疑い例に対しては担当医師がインフルエンザ迅速診断キットで検査を行い, Aが陽性となった場合は新型インフルエンザのprobable case, Bが陽性もしくはA,Bとも陰性の場合はsuspected caseとして扱う.
この段階においては疑い例が出た時点で速やかに保健所に連絡をとり感染症指定医療機関等へ搬送する.
上記に該当しない患者については, 一般医療機関の受診を促すか, 軽症者は帰宅を促す.
但し入院を要する重症患者は, 検査結果に関わらず, 空気感染予防策が可能な陰圧個室に入院させることが望ましい.他に原因がみつかるまでは新型インフルエンザ疑い患者として扱う.
1.3.1.1 搬送における注意事項
感染症指定医療機関等への患者の搬送が決定した場合、担当した医師は保健所に患者の搬送方法について確認をとる。原則的には保健所の搬送車での搬送になるが、状況に応じては自家用車での移動が必要になることもある。(公共交通機関での移動はできる限り避ける)
患者が自家用車で移動する場合、患者の電話番号を感染症指定医療機関等に伝え、また感染症指定医療機関等の電話番号等の連絡先を本人または家族に伝え、受診する時刻及び入口について感染症指定医療機関に問い合わせるように指導する。
1.3.2 後期(WHOフェーズ5以降, 発生段階第3段階蔓延期以降)
日本国内で患者が発生し, 既に流行し始めている段階である. この時期に病原体による診断を行うのはほぼ不可能であり, 病原体による鑑別よりもむしろ重症度による患者の振り分けがより重要になる.
1.3.2.1 トリアージの方法
38℃以上の発熱があり, 咽頭痛・咳・呼吸困難のうちの何れかの症状を呈した者は,一般外来を受診せず発熱外来を受診するよう指導する.(但し軽症者には, 自宅待機を推奨する)
1.3.3.2 重症度分類
鳥インフルエンザでは肺炎の合併例の予後が悪いことが知られている.発熱があり, 呼吸器症状を呈した患者が来院した場合, 当院では肺炎の重症度分類(SMART-COP)を用いて重症者と軽症者の振り分けを行う.
軽症者(ステップ1で該当項目の無い患者)には自宅待機を推奨し, 重症者については入院も考慮する必要がある.
下記のステップに従って軽症から重症に振り分けを行う.
ステップ1(1つでもチェックが入れば次に進む)
□ 脈拍 >125/分(1 point)
□ 収縮期圧 <90mmHg (2 points)
□ 新たな意識障害 (1 point)
□ 基礎疾患(悪性疾患, 肝疾患, 脳血管障害, 冠動脈疾患, 腎疾患,
慢性閉塞性呼吸器障害, 免疫不全, アスピリン内服中の小児, 妊娠中の女性)
50歳以下 □ 50歳以上
□ 呼吸回数 ≧25/分 □ 呼吸回数 ≧30/分 (1 point)
□ SpO2 ≦93% □ SpO2 ≦90% (2 points)
ステップ2(採血, 血液ガス, 最後に胸部レントゲン施行)
□ Alb 3.5g/dl未満(1 point)
□ pH <7.35 (2 points)
□ 大葉性肺炎(1 point)
最後に括弧内のpointsを集計する.
0-2 points 外来加療
ステップ1で1項目もチェックが入らなかった者は, 肺炎を併発している可能性は低く, 軽症者として扱う.
3-4 points 入院加療を検討
5-6 points 入院の上, ICU入室要検討, 場合によっては挿管を検討
≧7 points ICU入室適応, 挿管を検討
注1)基礎疾患のある患者, 50歳以上の高齢者はpointsが3-4点でも入院をする.(今後変更する可能性あり)
注2)感染拡大期の段階では, 軽症者も含め全例, 感染症指定病院に入院させる必要あり.
2.3.3 病原診断
今回の新型インフルエンザはA/H1N1型のインフルエンザウイルスであり, 季節性インフルエンザの診断キットが有効である可能性はある. 但しこの検査を行っても,新型インフルエンザの確定診断に取って代わる訳ではないことを留意しておく.
Probable CaseとSuspected Caseについては全例保健所に連絡し, その後の対応を仰ぐ.
確定診断のためにはRT-PCR法, もしくはウイルス培養での確認が必要となる.
トリアージ室では咽頭, 鼻腔ぬぐい液, 鼻汁, 喀痰および血清を採取し保冷剤入りの容器に入れ, 神戸市の場合は環境保健研究所に検体を提出する.
感染拡大期までは 疑い患者を含め全例入院の対象となっており, 感染症指定病院もしくは発熱外来で検査を行う.
蔓延期以降は, 重症例, 職員で患者との濃厚な曝露のあった症例などに適応をしぼって提出する.
2.4 治療
治療は季節性、鳥インフルエンザの治療に準ずる.感染拡大期までは全例治療の対象となるため, Probable case及びsuspected caseで疑いの強い症例に対してタミフル(75mg)を処方する.その後は重症度に応じて下記の要領で投与量を決定する.
蔓延期以降では, 入院が必要な症例にのみ抗ウイルス薬を投与する.
軽症例(蔓延期に入った時点で, 基礎疾患のない軽症例への投与は中止)
タミフル(75mg) 2カプセル分2 5日間
入院が必要な症例
タミフル(75mg) 2カプセル分2 5日間
ICU入室症例(肺炎合併例, 敗血症疑い例)
タミフル(75mg) 2(-4)カプセル分2 5日間
に加えて, 市中肺炎, 敗血症性ショックのガイドラインに準じた抗菌薬の投与開始, 速やかにICUに入室させ, 全身管理を開始.
当院では新型インフルエンザに関しては48時間以上経過した症例に対してもタミフル®を処方することを推奨する.
2.5 曝露後予防
高危険接触者(濃厚接触者)には予防内服を開始させ,10 日間自宅待機とする.高危険接触者(濃厚接触者)以外の接触者についても予防内服の対象とし, 最後に曝露があってから10日間経過するまで予防内服を継続させる.
但しフェーズ5, 第3段階(蔓延期)に入った場合には曝露後予防の対象を制限する.
当院での推奨投与量
タミフル(75mg) 1(-2)カプセル 分1 7-10日間
または
リレンザ(10mg)1回2ブリスター 1日1回 7-10日間
この推奨は, A/H5N1ウイルスの薬剤耐性について新たな知見が得られた場合は変更する.
3.検査, 検体の搬送について
3.1 X線(胸部単純), CTの撮影
基本的に入院患者のX線(胸部単純)はポータブル撮影とする.診断上CT撮影が必要な時には撮影室に連絡の上, 他の患者の撮影, 感染曝露に影響のない時間帯(16時頃)に最短距離の動線で患者を移動する.対応に関しては感染制御マニュアルを参照.
3.2 検体の提出
•鳥インフルエンザ, 新型(豚)インフルエンザ疑い患者の検体を提出する場合, 必ず事前に検査部微生物検査室へ連絡する. 担当医が提出する検体をバイオハザード容器に梱包し, トリアージ室前室(病棟の場合にも前室)に保管しておく.微生物検査室スタッフがトリアージ室で回収し, 検体の処理は安全キャビネット内で行う.
平日(8:30~15:00)
CBC, 臨床化学, 血清学的検査, 微生物学的検査, インフルエンザ迅速検査など
夜間, 休日
緊急検査(CBC, CRP, CPK, AST, ALT, BUNなど), リンパ球数
•鳥インフルエンザ, 新型(豚)インフルエンザの検査が必要な場合は, 検査部より神戸市環境保健研究所に連絡し検体の回収を依頼する.
4.抗インフルエンザ薬の使用方法
4.1抗インフルエンザ薬の投与量
抗インフルエンザ薬治療薬は,現在ノイラミニダーゼ阻害剤としてタミフル®,リレンザ®の2種類,抗A型インフルエンザ薬としてシンメトレル®,計3剤が承認されている.年齢毎の投与量については表1を参照。
表1 年齢毎の抗インフルエンザ薬の投与量
リレンザ®, タミフル®は鳥, 新型インフルエンザ発生時に倍量投与可能. 但しシンメトレル®については副作用の問題があり投与量は変更しないこととする.
腎機能障害を有する場合の投与量については表2に示した.
表2 腎機能障害時の投与量
4.2 段階毎の抗インフルエンザ薬の使用方法
下記に、フェーズあるいは発生段階ごとの抗インフルエンザ薬の使用方法をまとめた。
新型インフルエンザ発生後, 抗ウイルス薬の供給量の不足が生じる可能性があるため, これまでにもまして適正使用が重要となる.
フェーズ
(WHO) 発生段階
(厚生労働省) 新型インフルエンザ 鳥インフルエンザ 季節性インフルエンザ 曝露後予防の適応
3 前段階 - ◎ ○ 鳥 ◎
季 △
4A-6A 第1段階 ◎ - ○ 新 ◎
季 ×
4B 第2段階
(遠隔地) ◎ - ○ 新 ◎
季 ×
4B 第2段階
(近畿) ◎ - △ 新 ◎
季 ×
5B 第3段階
(感染拡大期) ◎ - △ 新 ○
季 ×
6B 第3段階
(蔓延期) 軽症 △
重症 ◎ - △ 新 ○
季 ×
◎:積極的に投与, 〇:適正使用を心掛ける, △:場合によっては使用も検討,
×:使用してはならない -:想定に入らない
季:季節性インフルエンザ, 鳥:鳥インフルエンザ, 新:新型インフルエンザ
参考文献
1 Arnold S.Monto. The Risk of Seasonal and Pandemic Influenza: Prospects for Control,CID,2009,48(S1),S20-S25
2 新型インフルエンザ専門家会議 医療施設等による感染対策のガイドライン 平成19年3月26日
3 Prevention and Control of Influenza, recommended by the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP), MMWR, 2007,56:RR6-
4 Stephanie A.C. Mark A.V., et.al. Does this patient have Influenza? JAMA,2005,293(8):987-997
5 Thomas RE., Jefferson TO,et al., Influenza vaccination for health-care workers who work with elderly people in institutions: a systemic review. Lancet Infect Dis 2006,6:273-279
6 Glezen W.P. Preventin and treatment of seasonal influenza, NEJM 2008,359:2579-85
7 厚生労働省医薬食品局安全対策課 . タミフル服用後の異常行動について(緊急安全性情報の発出の指示)平成19年3月20日
8 Saito R, Suzuki Y, et.al. Increased Incidence of amantane-Resistant Influenza A(H1N1) and A(H3N2) Viruses During the 2006-2007 Influenza season in Japan, JID 2008,197:633-635
9 IASR, Oseltamivir-resistant strain of influenza A/H1N1's H275Y caused domestic First Report
10 Writing Committee of the Second World Health Organization Consultation on Clinical Aspects of Human Infection with Avian Influenza A (H5N1) Virus, Update on Avian Influenza(H5N1) Virus Infection In Human, NEJM 2008,358(3):
11 第10回新型インフルエンザ専門家会議,新型インフルエンザ対策における サーベイランス等ガイドライン
12 兵庫県医師会, 兵庫県, 兵庫県新型インフルエンザ対応マニュアル(案)
13 神戸市保健所予防衛生課 新型インフルエンザ対策実施計画(第2版)・ガイドライン(フェーズ4以降)
14 WHO Clinical management of human infection with avian influenza A(H5N1) virus, Updated advice 15 August 2007
15 Dellinger
16 http://www.hhs.gov/pandemicflu/plan/sup5.html#nov
17 David A. Boltz,1 Jerold E. Rehg,et.al.Oseltamivir Prophylactic Regimens Prevent H5N1 Influenza Morbidity and Mortality in a Ferret Model. JID,2008,197:1315-23
18 James D.C., Aran S, et al. Predicting the Need for Mechanical Ventilation and/or Inotropic Support for Young Adults Admitted to the Hospital with Community-acquired Pneumonia CID 2008,47:1571-1574
19 U.S. Department of health and human services, Department of homeland security Guidance on allocating and targeting pandemic influenza vaccine
20 Occupational Safety and Health Administration(OSHA) : Pandemic Influenza Preparedness and Response Guidance for Healthcare Workers and Healthcare Employers 2007
投稿情報: 09:56 カテゴリー: 新型インフルエンザ | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (3)
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UpToDateでもすでにまとめが出ています。さすがに、早い。
Epidemiology, clinical manifestations, and diagnosis of swine H1N1 influenza A
Treatment and prevention of swine H1N1 influenza A
Patient information: Influenza symptoms and treatment
一番最後のは患者さん用です。アクセスのある方は、どうぞ。おそらく数週のうちにメジャーなジャーナルでもreviewが出ることでしょう。
投稿情報: 09:36 カテゴリー: 感染症 | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)
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