CRPは肝臓で作られるいわゆる「炎症マーカー」です。肺炎球菌のC多糖体と結合するのでこんな名前(C reactive protein)ですが、まあそんなうんちくはどうでもいい。
昔は、日本でだけ使われるドメスティックな検査でしたが、最近は別領域で海外でも用いられるようになりました。例えば、冠動脈疾患におけるマーカーとしても注目されており、予後設定などの目的で高感度CRPが用いられることがあります。また、感染症以外の炎症性疾患でも用いられることがあり、例えば関節リウマチの炎症マーカーとして用いられたりもします。巨細胞動脈炎(giant cell arteritis, GCA)の診断ではよく赤沈が用いられますが、赤沈陰性のGCAもあり、CRPのほうがより感度が高いと言われています。繰り返しますが、「上手に使えば」CRPは便利な検査です。
感染症におけるCRPの有用性はあるか?私は、ドリンクホルダー並みにはあると思いますので、その使い方は追々説明していきます。しかし、その前にCRPの間違った使用について検討しておいた方がよいでしょう。人間は成功よりも失敗からより多くを学ぶ生き物だからです。
まずは、
CRP「だけ」を感染症の診断に用いる。
前回紹介した例がそうですね。CRPをとりあえず測定し、それが高いと感染症と決めつけ、抗菌薬を開始する、というやつです。
特にこのやり方が頻用されやすいのは集中治療室(ICU)、免疫抑制剤を服用している患者、血液疾患などで化学療法を受けている患者などです。いわく、「俺の患者は易感染性だから、臨床症状ははっきりしない。熱も出ないこともある。だから、CRPがあがれば即抗生剤だ」というやつです。
「おっ、今朝のCRPは高いな。ペコポコマイシンを入れておこう」
残念ながら、CRP上昇でもって抗菌薬使用を正当化するようなエビデンスは皆無です。例えば、サイトメガロウイルス(CMV)アンチゲネミア・アッセイがこのような使われ方をします。このアンチゲネミアの価値についてもいずれ議論するつもりですが、よく、アンチゲネミア上昇でもって抗ウイルス薬を用いますね。これは、疾患が発症していない段階ですが、将来の発症を抑えることができる、という意味で用い、preemptive therapyと呼びます。preemptive therapyも、厳密にはほんまにええの?という議論は成り立ちますが、まあそこには目をつむってもよい。
大事なのは、CRPにはこのような方法、preemptive therapyに応用する、という方法が認められていない、という点です。CRPの上昇は抗菌薬使用を(無条件には)意味しない。この一点を覚えておくだけでも、病棟管理の質は格段にアップします。恐ろしく多くの患者さんが、CRP上昇という理由だけで抗生剤のピクルスにされているからです。
もっというと、感染症を積極的に疑っていない段階で、CRPをルーチンで測定することそのものに問題があると思います。検査にルーチンなし。必要な検査を、必然性を持って測定するというコンセプトを現場の医師は持つべきでしょう。
この間、自治医科大学の矢野晴美先生に教えていただいたのですが、2008年4月1日の時点でCRPの保険点数は16点、つまりコストは160円となるんだそうです。
1100床の(大学クラスの)病院で、稼働率90%と仮定し、1000床に患者がいるとすると、例えばCRPを、毎回の検査で全員に、週3回、ルーチンに検査しましょう。
1回 160 x 1000 = 160,000
週3回 160,000 x 3 = 480,000
1ヶ月=4週とすると、480,000 x 4 = 1,920,000
これが1年間になると、x 12 = 23,040,000。2300万円になります。
もちろん、これをゼロにするわけにはいかないでしょうから、ルーチン検査をやめたからといって即2300万円の赤字削減(最初から赤字と決めつけていたりして、、、、)とはいかないでしょう。逆に、そのCRPがチョロ上がり、という理由で無益に入れられている抗菌薬コストや、それが作る耐性菌対策コスト(ガウンや人件費)や、偽膜性腸炎などの合併症による入院延長で得る病院の不利益は莫大なものではないかと想像します。風が吹けば桶屋が儲かるみたいですが、本当だと思います。だれか調べてくれないかな、CRP測定がもたらす経済効果。
いずれにしても、CRP。介入の余地ある部分です。病院経営者の皆様、ご覧あれ。
ポイント
・CRPをルーチンに測定してはならない。
・そのルーチン検査の異常でもって「ルーチン」に抗菌薬を使ってはならない。
では、CRPがたまたま高い場合(そもそも測らなきゃいいので、このような仮定をおくこと自体、変なのですが)、私たちはどうすればいいのでしょう。
それは、何故CRPが上昇したのか、考えてみることです。原因を考えることなくして、アクションを取るのはいけません。パブロフの犬じゃあるまいし、せっかく私たちは両親からもらったすてきな頭を持っているのですから、それを使わない手はありません。何故、CRPが高いのか考える。
CRP上昇ー>抗菌薬
は脊髄反射でして、頭を使っていません。ベルの音ー>よだれ、に等しい行為と知るべきです。今度CRP上昇で抗菌薬使っている医者を見つけたら、「ベルヨダ先生」と呼んであげましょう。
ベルヨダ先生の多くは、実は優秀な頭脳の持ち主です。頭が悪いのではなく、使っていないだけなのです。話してみると、性格も(そんなに)悪くはない。きちんと理解すれば分かる話ですが、悲しいかな、人間とは結構理性よりも習慣で動いてしまうのですね。ベルヨダ先生が、その頭脳にふさわしいプラクティスをできるように、私たちはお手伝いをしていかなければならないのです。
パンダ飛行機
ネットサーフィンにてCRPという言葉に引っかかった先生のご意見拝見させていただきました.非常に参考になりました. 私は某会社の某営業マンです. 現在はアメリカにてこのCRP測定の機器を販売しております.正確には販売以前のマーケット調査になりますが.
日本では(特に小児科領域では)、感染症を疑うや否や、即CRP検査(あわせてCBCの検査)を行い、顆粒球数の比率が過度に上昇した際、またCRP濃度が急激に上昇した場合などに抗菌薬を投与する、また治療効果の確認などで、両パラメーターを時系列にWatchするということが自然のように行われているような気がします. 一方、米国ではこのようなケースはほんとうに稀で、要するに私たちが持ち込んだ小型のCRPを測定できる機械が何の意味もなさないのかと日々悩まされてます.米国と日本のCRPに対する認識にここまでの違いがあるのかと驚かされてます. 先生のご経歴も拝見させていただきましたが、先生はアメリカでの感染症に関する実情をもご存知かと思い、今回コメントさせていただきました. 米と日のCRPに対する認識の違いに関してコメントいただければ幸甚です.
投稿情報: 某会社の某営業マン | 2010/11/24 09:00