S「D先生、今日のお昼はメーカーの説明会ですよ。お昼ごはん出ますから、参加してください」
D「なにい。まだそんなことやってんのか。いい加減、製薬業界からの接待は受けるな、って再三再四言ってるだろが」
S「だって、食事が出ると医局員からも評判がいいんですよ。学生に美味しいご飯をごちそうすると、入局してくれるかもしれないじゃないですか」
D「そういうのを、何ていうか知ってるか?「わ・い・ろ」っていうんだよ」
S「また大げさな。まあ、なんだかんだ、薬について勉強できるのはいいことじゃないですか」
D「バカか、お前は」
S「バカとはなんですか。パワハラで訴えられますよ」
D「お前、メーカーの説明会で薬を使えるようになると思ってるのか?」
S「そりゃ、メーカーのことですからよいことは針小棒大に、悪いことは矮小化させてることくらいは知ってますよ。ぼくだってプロの医者ですから、そのへんはMRの説明も、取捨選択して大事な情報だけ取り出してますよ」
D「アホか。詐欺師に騙されるやつは「自分だけは騙されない」と信じ込んでるやつなんだぞ。特に頭がいいと勘違いしてるプライドの高い医者なんて格好のカモだ。「自分は騙されてるんじゃないか」とビクビクしているやつこそが、騙されないんだよ」
S「ぐぐ。そう言われると」
D「だいたい、製薬メーカーのMRさんたちがなんで無料で薬の説明会を開き、かつ高級料亭のお弁当まで無料で配ってるんだ?慈善事業か?もちろん、違う。そういう投資にはちゃんとリターンがあるからなんだよ。つまり、美味しいお弁当を出せば自社の薬を使ってもらいやすくなるんだ。薬のデータなんてちゃんと吟味できてないってことだよ」
S「ぐぐぐ。そう言われると」
D「そもそもだな。薬を使うとは、「選択する」ことだ。つまりAという薬の知識を持っているだけではAという薬を使いこなせない。なぜBではなくCでもなくDでもない、他ならぬAを使うのか、その比較検討ができて初めてAを選択できるんだ。MRさんがBやCやDのまっとうな情報を提供してくれると思うか?その場合はAの優位性を示すようなデータだけに決まってんだろ。バカって言われても仕方ないだろ。バーカ、バーカ、バーカ!」
S「ううう、小学生みたいな罵り方をされて、しかも言い返せない。しかも、D先生に、、、なんかとても悔しい、、、、」
D「そういうのをな、学生も研修医もよく観察してるんだよ。そして真似するんだ。彼らの薬の選択能力をみすみす奪っているようなものだろ。昼飯くらい自分で買え!昼から贅沢な弁当を食うな!」
S「あ、そういえばD先生、こないだの健康診断の結果が悪くて、今、ダイエット中だそうですね。お昼ごはんも抜いてるって聞きましたよ」
D「ぎくっ」
S「なんだ、先生が食べられないから、八つ当たりしてるだけじゃないですか」
D「違うもん!ぼくだけ美味しいごはんが食べられないから、お腹がぐうぐう鳴ってムカついてるんじゃないんだもん!」
S「あやしいなあ。基本、発想が小学生だからなあ」
D「では、S先生。なぜMRさんとの「おつきあい」が反教育的なのか、もう一つの大事な理由を説明しよう」
S「え、MRとのつきあいって反教育的なんですか?製薬メーカーなくなったら、内科医終わっちゃいますよ」
D「ほうら、語るに落ちたな」
S「??」
第7回「製薬メーカーとの「おつきあい」は反教育的」その1 終わり
続く。
この物語はフィクションであり、DとSも架空の指導医です。
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