YSQ:誤嚥性肺炎の重症化リスク因子は何か?
<序論>私の担当症例は37歳の糖尿病性ケトアシドーシスの患者が気管挿管により誤嚥性肺炎の一種であるVAP(Ventilator-associated pneumonia)を起こしたと疑われるものである。重症化(致死的)VAPのリスク因子を知ることは、今回の若い患者の予後を予測するために有用であると考えたテーマとした。調べる中で誤嚥性肺炎全体を対象とする論文よりVAPに限定した論文を参考にする方が患者に焦点を合わせた考察になると気づき、VAPのみを対象とする論文を調べた。
<本文>
VAP患者の疫学に焦点を当てたBlotらの研究[1]では、48時間以上機械的換気を行った中年(45–64才;n=670), 高齢(65–74 才;n= 549), 後期高齢 (≥ 75 才;n= 516)患者に対する前向きコホート研究の二次分析からVAPの死亡リスク因子を調べた。VAP発症率は年代間で違いがなかったにも関わらず、死亡率は中年VAP患者(n=103)で35%、高齢(n=104)・後期高齢(n=73)VAP患者でどちらも51%(p=0.036)であった。ロジスティック回帰分析から、高齢(調整オッズ比,2.13;95% CI,1.13-3.99,p=0.019)、後期高齢(調整オッズ比,2.15;95% CI,1.07-4.36,p=0.032)、糖尿病の既往(調整オッズ比,2.23;95% CI,1.15-4.31,p=0.017)、敗血症(調整オッズ比2.04,;95% CI,1.15-3.60,p=0.014)、高リスク病原体(MRSA, P. aeruginosa, A. baumannii, and S. Maltophilia.)( 調整オッズ比2.25,;95% CI,1.31-3.86,p=0.003)がVAP患者の重要な死亡リスク因子と指摘している。それらに比べると、VAP発症時の発熱症状の欠如(調整オッズ比1.65,;95% CI,0.92-2.99,p=0.095)、SAPSⅡスコア(調整オッズ比1.01,;95% CI,0.99-1.03,p=0.192)、VAP発症までの暴露期間(調整オッズ比1.02,;95% CI,0.99-1.06,p=0.275)では傾向性はわずかに留まっている。
本論文では発症時発熱欠如で調整オッズ比は高くなかったが、過去の十分なエビデンスに基づく研究ではVAP発症時の発熱欠如は重症化リスク因子と指摘されており、高齢者は肺炎発症時発熱がないことが多いことを踏まえると、今回高齢であることが重症化リスク因子とされたことと矛盾しない。
<結論>
誤嚥性肺炎のなかで、VAP患者の重症化リスク因子で重要なものは高齢(65才以上)、糖尿病の既往、敗血症、高リスク病原体(MRSA, P. aeruginosa, A. baumannii, and S. Maltophilia.)である。誤嚥性肺炎全体では発症背景も機序も異なる患者が含まれるため、今回の論文を誤嚥性肺炎全体にあてはめることはできない。
また、今回の論文は二次分析にすぎず、栄養状態や身体機能などリスク因子として想定されそうな項目はデータが無く解析に含まれていない。45才未満が対象となっていないこと、75歳以上は一括りになっていることなどは、年齢での死亡リスク解析に影響していると考えられ、より対象を広げて細かく分類し他項目に渡る研究が必要である。
[1] Blot S. Prevalence, risk factors, and mortality for ventilator-associated pneumonia in middle-aged, old, and very old critically ill patients.Crit Care Med. 2014 Mar;42(3):601-9. doi: 10.1097/01.ccm.0000435665.07446.50.
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