「桜を見る会」問題は、メディアや世間が大騒ぎするような問題ではない、という意見があります。誠にそのとおりだと思います。
他方、こんなことは看過してもよい些事かといえばそうではありません。これは短期的お祭り的に大騒ぎをする問題とは思いませんが、放っておいてよい問題でもないのです。
これは、言い換えれば利益相反の問題です。ぼくの周囲には医者が多いですが、利益相反問題に無神経な医者とawareな医者がいます。前者は「桜を見る会」くらいどうだっていいだろ、という意見を持ちやすいでしょう。
メーカーからランチをゴチになったり、タクシー代を出してもらって接待されても俺の医者としての判断は変わらん。利益相反問題を看過する人はこう言います。しかし、ここが本質的にヤバいのでして、詐欺師に騙されるのは「俺は騙されないぞ」という確信が高い人なのです。本当に騙されないのは「俺は騙されているのではないか」という健全な猜疑心をキープできる人のことで、まさに「無知の知」なのです。知識を誇る人に、知性が十分とは限らないのです。
よって、日本では(アメリカでもだけどね)、高額で高値で商売される薬がバカ売れします。典型的なのがゾフルーザですね。エビデンス・レベルが低くても、副作用情報がすっからかんでもメーカーの販促にころっと騙されてしまう。数字は正直です。日本の医者は極めて利益相反問題に脆弱なのです。「俺は騙されないぞ」という確信が強い「物知りの愚か者」だからです。
医者や官僚、警察官、軍人あるいは自衛官などは公益性が極めて強い存在です。また、強い権力を有しています。人を刃物で切り裂いても罰せられないのは医者くらいですからね。よって、利益相反問題には特に高い意識を持たねばなりません。「俺にごちそうしてくれるあの人には懸命の治療をするけど、貧乏なあの人は手を抜いてやれ」ではダメなのです。ノブレス・オブリージュは、高い権力所有を許されたがゆえに課される、大きな責務をいうのです。
一方、政治家は公益性が高いかというとけっこう微妙です。むしろ、一部の人たちの利益を代表していてこその政治家です。この傾向は世界的に顕著になっていて、例えばトランプ大統領とかは、自分の支持者を喜ばせていれば、その他の人たちをどんなにないがしろにしても構わない、という露骨な態度を見せています。選挙に勝てば、それでよい。日本を含めて世界中がそういう方向に向かっていますね。
よって、自民党総裁が自分たちの支持者たちを接待するのは、法的な問題を克服さえしていれば、まあ許容されるのかもしれません。政治家には公益性が高くないのだから、実は。
しかし、内閣総理大臣はただの政治家ではなく、行政府のトップです。ご本人も時々間違えているようですが。要するに極めて公益性が高い官僚たちのトップということになるのです。それが自分たちの贔屓筋をえこひいきするような態度を、しかも税金でとるというのは大問題なのです。これは、共産党が言うように人数とか額の問題ではない。ボールペン1本、食事1回にすら配慮して、えこひいきがないようにしなければなりません。
なぜならば、官僚は超巨大な権力を持っているからで、彼らが一部の人達の利益を誘導し、他の人達に不利益をもたらすような行政を恣意的にやったら民主主義は死んでしまうからです。
実は、そういう官僚が腐っている国は珍しくありません。ぼくがよくいくアジア各国は概ねそういう国で役人が賄賂をもらって恣意的な行政をしています。その典型が中国ですよね。まあ賄賂問題は習近平になって厳しくなりましたが、一党独裁で恣意的な行政で一部の利益誘導を露骨にやっています。
でも、そのほうが経済が活性化されたりしていいことも多いじゃないか。そういう本音も財界ではあるようです。中国が日本以上の経済大国になったのは非民主的なリーダーシップのせい(おかげ?)だからです。反中的右寄りの人たちが、中国をロールモデルにするという不思議な現象がここに見られます。
恣意的で利益誘導的行政でも、国家が安泰ならそれでいいじゃないか。でもですね、なんでもうまい話には落とし穴があるものです。その延長線上に例えば今の香港の問題とかがあるのです。あれはもちろん香港の問題ですが、中国でガッツリ儲けて香港で高いマンションを買った中国人たちも、香港は危なくて住めない場所になっています。恣意的な利益誘導で、かえって生活が悪くなってしまうという皮肉。
公共性問題は、たとえ些細な「会」程度でも看過してはいけないのは、恣意的で非公共的な行政がどこまでエゲツナクなっても取り返しがつかないところに行ってしまいかねないところにあります。
すでに日本の官僚たちは公共性を相当に損ねています。彼らは賄賂とかは受け取っていないでしょうが、一部の利益誘導を露骨にやり、日本全体のことを考えられなくなっています。典型的なのが例えばHPVワクチン問題とかですよね。悪いと分かっているのに、動けない。公僕が聞いて呆れ返ります。
ぼくは多くの人が言うように安倍首相が悪辣で悪魔的な人物とは実は思っていません。しかし、自分のイエスマンに踊らされて、諫言するものを遠ざけがちな、日本によくありがちな凡庸なリーダーだとは思っています。ですが、「会」問題ではさすがに「これはまずいよ」と諫言した人がいたのでしょう。今回は慌てて引き返して正解だったのですが、今後もこの恣意性の発揮はあちこちで起きかねないなあ、とは危惧しています。
やっぱ、官僚がもっとものを言うようにならなきゃだめですよね。そして公共性のロールモデルを自分たちにも、そして内閣にも示さねば。ちゃんとした若手はまだいるはずなので、間違っている年寄にどんどん苦言を呈してほしいと思っています。
ま、こんなこと言っても「俺は間違ってない」という確信度が高い方の行動変容を求めるのは超困難なわけで、多くの方にはご賛同いただけないであろうことは覚悟はしています。
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