脳膿瘍において外科的治療の術式による治療効果の違いは見られるか?
【序論】
脳膿瘍は治療と診断のためにほとんどの症例で外科的処置が行われる(*1)。そして外科的手技としては穿刺吸引術と切除術がある。今回この2つの手技の治療効果の違いを調べた。
【本論】
一般的に穿刺吸引術は切除術よりも組織障害を起こすことが少なく、一方で脳炎段階の穿刺吸引術は出血のリスクをもたらし、また2.5 cmを超える膿瘍では開頭切除術が行われる(*2)。A.H.Sarmastらの後ろ向き研究(*3)では、29人の患者に対して穿刺吸引術が行われ、18人の患者に対して切除術が行われた。穿刺吸引術施行患者のうち7名は再手術となり、内4名では膿瘍の残余がみられ、3名には膿瘍の拡大が認められた。一方で、切除術施行患者で再手術となったものはいなかった。術後2週における神経症候は、切除群では17人(94%)で改善が認められたのに対し、穿刺吸引群では15人(52%)のみであった(P=0.025)。しかし術後12週後では穿刺吸引群の21人(72%)に神経症候の改善が認められた(P>0.05)。術後の抗菌薬の平均投与期間は、切除群が2.7週間(SD±1.1)に対し穿刺吸引群が3.8週間(SD±1.3)であり、有意に切除群の投与期間が短い結果となった(p=0.006)。同様に平均病院滞在日数に関しても、切除群が18.1日(SD±7.7)、穿刺吸引群が24.9日(SD±6.6)と切除群の滞在日数が有意に短いという結果であった(p=0.002)。別の研究(*4)においても、術後早期からの神経症候の改善率や再手術率では同様の結果が得られたが、2群における手術合併症と死亡率に有意差は認められなかった。
【結論】
切除術は穿刺吸引術と比較して、神経症候の早期改善が見込まれ、再手術率が低く、術後の抗菌薬投与期間と入院期間が短いという治療効果の違いがあることがわかった。しかしながら手術合併症や死亡率に有意差は認められないため、患者の状況や膿瘍の所見から治療を選択する必要があると感じた。また、今回の議題に対する前向きランダム化試験は行われておらず、今後、よりエビデンスレベルの高い研究を行う必要があると感じた。
【参考文献】
(*1) シュロスバーグの臨床感染症学 第1版 P405-408
(*2) UpToDate Treatment and prognosis of bacterial brain abscess
Author: Frederick S Southwick, MD
(*3) Sarmast AH, et al.: Aspiration Versus Excision: A Single Center Experience of Forty-Seven Patients With Brain Abscess Over 10 Years. Neurol Med Chir (Tokyo) 52, 724-730, 2012
(*4) Tan WM, Adnan JS, Mohamad Haspani MS: Treatment outcome of superficial cerebral abscess: An analysis of two surgical methods. Malays J Med Sci 17: 23-29, 2010
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