感染症内科BSLレポート「PDの術前抗菌薬として何を選択すべきか?」
【序論】膵頭十二指腸切除術(PD)における手術部位感染 (SSI)を予防するための術前抗菌薬として、米国感染症学会ガイドラインではCEZが推奨されている。これに対して、より各患者に特化した抗菌薬を選択する方法はないのか疑問に思い、以下に考察する。
【本論】PDの術前に 内部術前胆道ドレナージ(内部PBD)を施行した患者を、CEZを術前投与した群(69人)とCTRXを術前投与した群(69人)に分け、SSIの発生率を後ろ向きに比較した論文が2018年にS.Sanoらによって発表された。この研究において、CTRX群におけるClavien-Dindo GradeⅡ以上のSSIの発生率はCEZ群よりも低かった(GradeⅡ:52%vs28%、GradeⅢa以上:41%vs20%)。また、CEZ群の術中以降の胆汁培養にて検出された菌の大部分はCEZに耐性がありCTRXに感受性がある菌であった。さらに、CTRX群の術中以降の胆汁培養ではCTRXに耐性を持つ菌はほとんど検出されなかった。1)
2014年にT.Sudoらによって発表された論文では、術前の外部PBDによる胆汁培養の結果、腸球菌やグラム陰性桿菌が多く検出され、それらをカバーする抗菌薬の術前投与によりSSI発症率が減少すると結論付けている。また、内部PBD群ではそれ以外と比べてSSIの発症率が高いことも示された。術中胆汁培養で検出された菌の術前抗菌薬に対する耐性の存在はSSI発症の重要な危険因子であり、SSIを発症した患者の感染部位で検出された菌の65%が術前抗菌薬に耐性を持っていた。しかし、非外部PBD群には術前にCEZもしくはCZOPが投与されていたが、この群において術中胆汁培養での腸球菌の存在がSSI発症の危険因子であることは示せなかった。2)
【結論】以上より、外部PBDと胆汁培養を施行し微生物が検出された場合はそれらをカバーする抗菌薬を選択し、培養陰性の外部PBD群もしくは内部PBD群にはCTRXを選択し、非PBD群にはガイドライン通りにCEZを投与すべきではないかと考えた。PBDを受ける患者は胆汁鬱滞が強く、特に内部PBDでは逆行性感染のリスクがあるためこのように慎重に抗菌薬を選ぶ必要があるが、実際には患者の他の臨床的特徴や地域・施設による細菌の抗菌薬感受性の差なども考慮すべきだろう。また、腸球菌に関してはその存在がSSI発症の危険因子であるとは明らかにできず、本当にカバーすべきか議論の余地が残った。さらに、非PBD群に対してもCTRXを選択すべきなのかという疑問も残る。今後さらなる研究により、これらに関するレジメンが解き明かされることが期待される。
【参考文献】
1)Sano S, et al: Third-generation cephalosporin for antimicrobial prophylaxis in pancreatoduodenectomy in patients with internal preoperative biliary drainage. Surgery. 2019 Mar;165(3):559-564
2)Sudo T, et al: Perioperative antibiotics covering bile contamination prevent abdominal infectious complications after pancreatoduodenectomy in patients with preoperative biliary drainage. World J Surg 2014; 38: 2952-9
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