感染症内科BSLレポート
膿胸における外科的処置は再発を予防するか?
【序論】
JAID/JSC 感染症治療ガイドライン(呼吸器感染症)によると、膿胸患者において、胸膜の肥厚が著明な場合や胸水が多房化している場合には胸腔鏡下のデブリドマンが必要となることもあり、その際は胸腔ドレーン経由での繊維素溶解薬(ストレプトキナーゼなど)投与や、開胸術・胸膜剥離術といった侵襲的な外科的処置を行うこともある、と記されている。
XXX当レポートでは膿胸患者に対する外科的処置はその後の再発を予防するか調べた。
【本論】
Nayak Rらの調査は、1996年1月1日から2015年12月31日までに膿胸の診断を受けた成人9,014人を対象にしたコホート研究である。この調査では、患者を非手術群(胸腔チューブドレナージのみ)と手術群(開胸術)に分類し、2群間の死亡率と再入院率を比較している。
結果、入院中の死亡率は17.2%対10.6%(RR 1.32-1.54, P<0.001)、術後30日間の死亡率は11.1%対4.2%(RR 1.86-3.38, P<0.001)、6ヶ月間の死亡率は26.6%対15.0%(RR 1.38-1.59, P<0.001)、1年間の死亡率は32.3%対19.7%(RR 1.38-1.59, P<0.001)となり、全体を通して非手術群で優位に死亡率は高くなるという結果が得られた。また術後90日間での膿胸再発による再入院率は、5.4%対3.2%(RR 1.25-2.15, P<0.001)と、これまた非手術群で優位に高かった。
ただし、術後90日間での膿胸を含む全要因での再入院率では18.8%対21.1%(RR 0.96-1.18, P=0.258)と、優位な差は認められなかった。
【結論】
膿胸での開胸術は、手術を行わない場合と比して、術後の死亡率を減少させることが分かった。また、術後の膿胸の再発を予防することも分かった。ただし、全要因を考慮した再入院率では差が見られなかったため、膿胸を治療することはできても、その他の合併症を引き起こし再入院という結果に繋がったのではないかと考えられる。(本稿では調べ切れなかったが)そうした合併症を引き起こすリスクファクターを考慮し、その都度開胸術を選択するか否か決定する必要があるだろう。
【参考文献】
Nayak R, Brogly SB, Lajkosz K, Lougheed MD, Petsikas D. Outcomes of Operative and Non-Operative Treatment of Thoracic Empyema: A Population Based Study. Ann Thorac Surg. July 2019. doi:10.1016/j.athoracsur.2019.05.090
一般社団法人日本感染症学会,公益社団法人日本化学療法学会 JAID/JSC 感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会. JAID/JSC 感染症治療ガイドライン――呼吸器感染症――. 2014. 109p.
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