YSQ『同種造血幹細胞移植患者において、口腔の健康状態はその後の菌血症の発症に影響するのか。』
〈序論〉担当患者が化学療法中に、口腔粘膜病変を発症し、さらに口腔内常在菌であるRothia mucilaginosaによる発熱性好中球減少症を発症していたため、口腔内の健康状態がその後の感染症のリスクになるのではないかと考えた。以下は化学療法中の急性骨髄性白血病患者の口腔内の状態と同種造血幹細胞移植後の菌血症発症の関連性に対する論文である。
〈本論〉急性骨髄性白血病患者における、同種造血幹細胞移植後の化学療法中の菌血症の発症に、口腔の健康状態が影響しているのかを検討した。対象は2007年から2011年までの92人の急性骨髄性白血病の患者。口腔の健康状態は歯性病巣で評価した。血液培養はAML発症から同種造血幹細胞移植後60日間までの間である。92人中91人が歯の評価を受け、14%にあたる13人が歯性病巣を有していたため、歯科治療を同種造血幹細胞移植前に完了させた。しかし、移植後の菌血症は92人中68%にあたる63人に見られ、されにそのうちの19%にあたる12人は口腔由来による菌からの発症だった。
〈考察〉歯性病巣をすべて歯科治療によって除去したにもかかわらず、92人中12人は口腔由来の菌によって菌血症を発症したことから、口腔の健康状態は菌血症の発症に影響を与えにくいと考えられうる。ただしこの研究においては予防のための抗生物質や化学療法での治療薬が各患者で異なっていることに留意する。また、他の研究でも、歯性病巣がない、または完了した群と、歯性病巣がある群で比較すると、移植後の菌血症は、前者で75%、後者で95%に見られ、両群間に有意差はないとされており、移植前の歯科治療は必ずしも根治的でなくていいと言えるが、歯科治療は移植の開始前に完了させておくのが最善だろう。ただし、移植後の口腔管理はその後の口腔粘膜障害の重症化の予防につながり、また合併症を優位に減らすと言われている。Kashiwagiらの研究によれば、移植後に、歯周炎や齲歯の治療、歯科衛生士による清掃指導、生理食塩水によるうがいなどの口腔ケアの実施群と非実施群とを比較したところ、口腔粘膜や発熱性好中球減少症などの合併症は前者において優位に少なかった。
以上のことを踏まえ、移植前の歯性病巣に対しては、血液腫瘍の治療を第一に考え、必ずしも移植前に治療を完了させておく必要はないが、移植後の合併症の予防もふまえて、移植前に歯科治療を完了させておくのが最善と考える。
(参考文献)
Suitan AS,Zimering Y,Petruzziello G,Alyea EP 3rd,Antin JH,SOiffer RJ,Ho VT,Sonis ST,Woo SB,Marty FM,Treister NS:Oral health status and risk of bacteremia following allogeneic hematopoietic cell transplantation.Oral Surg Oral Pathol Oral Radiol.253-260,2017.
Kashiwagi H,et al.:Professional oral health care reduces oral mucositis and febrile neutropenia in patients treated with allogeneic bone marrow transplantation.Support Care Cancer,20:367-373,2012.
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。