YSQ『どのような疾患を有する人がVAP発症のリスクが上昇するか』
【序論】今回、私の担当患者は肝不全でICU入院後、黄色ブドウ球菌による血液カテーテル感染、さらにVAPを引き起こした。VAPはICUの院内感染で最も多く、VAP発症群では死亡率が増加し、在院日数も長期化させる。私が以前、総合内科で担当した患者もVAPが疑われていた。そこで私はVAPのリスクとなる疾患及びリスク因子について調べた。
【本文】人口呼吸器関連肺炎(VAP:ventilator-associated pneumonia)は『気管挿管による人工呼吸開始48時間以降に発症する肺炎』と定義され、気管挿管、人工呼吸器管理前に肺炎がないことが条件である。発症時期により気管挿管4日以内の早期VAPと5日以降発症の晩期VAPに分類される。細菌の進入経路は主に経気道的であり血行性、リンパ性は稀である。気管挿管患者では進入経路を内側と外側に分けて考えるが、内側からの汚染は稀で、ほとんどのVAPは口腔咽頭に存在する原因菌が気管チューブの外側からカフをすり抜けて気管内に進入するために発症すると考えられている。原因菌としては、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、腸内細菌が半数以上を占めており、VAPの発症には原因菌が口腔内に定着(コロニゼーション)することが重要である。
つまり原因菌が口腔内に貯留し、それが気管へ逆流しやすくなるような疾患、病態、状況がリスクであると考える。具体的なリスク因子としては長期人工呼吸器管理、再挿管、原疾患(熱傷、外傷、中枢神経疾患、呼吸器疾患、心臓疾患)、誤嚥、筋弛緩剤の使用、低い気管挿管チューブカフ内圧、ICUからの移送、仰臥位など様々である。リスク因子の中でも原疾患、特に熱傷、外傷について言及している文献について調べたが、見当たらなかった。汚染創を有することにより易感染状態になっていることが原因として考えられる。また経鼻気管挿管、経鼻耳管がある場合には副鼻腔円炎が温床となる。気管チューブの外側を介して声門下カフ上の口腔内貯留物が気管へ流入し、気管チューブ表面でバイオフィルムを形成し、人工呼吸によって気道抹消へ播種されると考える。またリスク因子に関しての文献では次のようなものがあった。人工呼吸器管理患者7784人を対象にしたYU RU KOUらによる前向き研究によると1234人(15.85%)がVAPを発症し(早期VAP:445(36%)、晩期VAP:789(64%))、結果として、早期VAPのリスク因子は呼吸困難の発症、入院前の多剤耐性緑膿菌感染、人工呼吸器の開始2日以内の経腸栄養であり、晩期VAPのリスク因子はCOPDの増悪、肺炎でのICU入院、院内輸送、PAO2-FIO2<200㎎、バソプレッサ使用、メチシリン耐性ブドウ球菌による定着であることが分かった。また男性は早期、晩期VAPともに発症リスクが女性に比べて高かった。また限定的な病態ではあるが、腹腔内圧の上昇がリスク因子であるとELENI PAPAKRIVOUらが報告している。
【結語】VAPの予防策に関して論じている文献は散見されたが、リスク因子、とりわけリスクとなる疾患に関して論じている文献はあまり見当たらなかった。また上記のリスク因子一つ一つに対しての考察は不十分であった。VAPを防ぐためには発生機序を理解し、リスク因子を排除し、リスクが高いと思われる疾患や病態を有する人には、より注意を払うことが重要である。
【参考文献】
(1)『Special issue : Hospital infection : An advance in diagnosis and treatment.6.The care of special disease status patients from the viewpoint of hospital infection countermeasure.1.The tracheostomy cases ( endotracheal intubation ).』力富 直人
(2)『Respective impact of implementation of prevention strategies, colonization with multiresistant bacteria and antimicrobial use on the risk of early- and late-onset VAP: An analysis of the OUTCOMEREA network.』
Ibn Saied W1,2, Souweine B3, Garrouste-Orgeas M4, Ruckly S1, Darmon M5, Bailly S1,6, Cohen Y7, Azoulay E8, Schwebel C2, Radjou A9, Kallel H10, Adrie C11, Dumenil AS12, Argaud L13, Marcotte G14, Jamali S15, Papazian L16, Goldgran-Toledano D17, Bouadma L9, Timsit JF1,9; OUTCOMEREA study group.
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。