感染症内科 BSL レポート: 手術中の消毒薬の違いにより SSI の発症頻度に差はあるのか?
n はじめに ‒ 消毒薬により SSI の発症率に差はあるのか? - 1 担当患者はXX術後に手術部位感染 SSI (Surgical Site Infection)を発症し、バンコマイシンによる治療を受けている。SSI は米国における院内感染のうち 38%を占め、最も一般的なものである。CDC の 基準によると、SSI は手術時に切開した部位あるいは周辺に起こる感染症とされ、浅いと皮膚のみに 起こるが深刻な場合には皮下や臓器といった深部にまで及ぶ。本レポートでは、手術時の消毒薬の選 択が SSI の発症頻度に差をもたらすか、について考察する。
n ポビドンヨード vs クロルヘキシジンのランダム化比較試験 2 手術時に用いる局所消毒薬として、2%クロルヘキシジンアルコールと 10%ポビドンヨード水溶液を比べたランダム化比較試験が行われている。この研究は、米国の6つの病院で実施され、849 件の成 人患者の手術が対象となった。対象をクロルヘキシジン群(n = 440)とポビドンヨード群(n = 409) にランダムに分け、術後 30 日以内の SSI の発症頻度が比較された。
結果としては、クロルヘキシジンでの SSI 発症率が 9.5%だったのに対して、ポビドンヨードでは 16.1%であり、クロルヘキシジンの方が有意にSSIの発症率が低いという結果になった(p値 =0.004; 相対危険度 = 0.59; 95%CI, 0.41-0.85)。また SSI は CDC の基準で、発症部位に応じて切開部表層 SSI、切開部深層 SSI、臓器-腔 SSI に分類される。クロルヘキシジン vs ポピドンヨードの SSI 発症率 は、切開部表層 SSI では 4.2% vs 8.6%、切開部深層 SSI では 1% vs 3%といずれもクロルヘキシジン の方が低かった。しかし、臓器-腔 SSI については、4.4% vs 4.5%と有意な差はみられなかった。
n WHO ガイドラインではクロルヘキシジンアルコールを推奨 3
2016 年に発行された WHO の SSI 予防のための国際ガイドラインでは「手術時にはクロルヘキシジ ンを含有するアルコールベースの消毒薬を用いること」を強く推奨している。これは WHO が行った メタ解析により、ポビドンヨードよりもクロルヘキシジンの方が SSI の発症率が有意に低いとされた ことを主な根拠にしている。ただしクロルヘキシジンには皮膚刺激性があること、過敏性のある患者 や新生児などにはアルコールベースの消毒薬を用いてはならないことなどが指摘されている。
n まとめ ‒ クロルヘキシジンアルコールが SSI 予防に有効 - 米国、インド、ブラジルなど各国でクロルヘキシジンとポビドンヨードを比較する RCT が行われている 3。研究ごとに濃度や溶媒の種類に違いはあるが、複数の研究がクロルヘキシジンを用いると有 意に SSI の発症頻度が下がると結論づけており、メタ解析でも同様の結果が得られている 3。過敏性 を考慮しつつ、可能ならクロルヘキシジンアルコールを用いることが SSI 予防に有効だと考えられる。
n 参考文献
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D. Anderson, et al. Overview of control measures for prevention of surgical site infection in adults. UpToDate. Last updated; Mar 12, 2019.
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R. Darouiche, et al. Chlorhexidine‒Alcohol versus Povidone‒Iodine for Surgical-Site Antisepsis. N Engl J Med 2010; 362: 18-26.
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WHO Global guidelines on the prevention of surgical site infection. / Web Appendix 8. 2016.
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