感染症内科 レポート課題
人工股関節全置換術(THA)後の人工関節周囲感染(PJI)治療にあたり、一期的再置換術と二期的再置換術では、 感染再燃リスクなど、患者の予後にどの程度差異があるのか
Introduction
人工股関節全置換術(THA)後には、0.3~3%の割合で人工関節周囲感染(PJI)が合併する。PJI の治療は、その人 工関節を温存する方法と、その人工関節は一度抜去した上で再置換術を行う方法とに大別できる。後者には、抜去と再 置換を一度に行う一期的再置換術と、抜去の後、しばらく期間をおいて再置換を行う二期的再置換術がある。これら 2 つのどちらがより優れているのか論文を検索し、比較した。
Body
論文は、Markov cohort simulation decision を用いており、Randomized control と比べて信頼度は落ちる。Single- stage revisionを受けた平均年齢321人の患者とTwo-stage revisionを受けた576人の患者を比較する内容であった。
QALYs(Quality-adjusted life years:質調整生存年)については、短期間(1 年)で 0.945 vs 0.896、長期間(10 年) で 7.853 vs 7.771 であり、死亡率についても 0.5% vs 2.5%と、共に Single-stage revision のほうが優れていた。
しかし、初回手術の成功率は 71.8% vs 78.2%、感染再燃率は 12.3% vs 6.5%、など Two-stage revision のほうが優れ た点もまた多かった(ただしひとたび再燃したならば、Two-stage revision のほうが、抗菌薬治療だけでなくなんらか の外科的処置を必要とする症例は多い。2)
現時点で両者は一長一短であり、どちらが優れているとは言い切れない。この議論に関して結論を得るには大規模な Randomized control trial の実施を待たなくてはならない。
Conclusion
高齢者人口が増加する中、THA の件数は今後も世界的に増加の一途をたどるとみられ、現状のままであれば PJI も 比例して件数が増加していくと考えられる。
PJI を減らすための予防策として現在有意に結果が出ているものには、術前の抗菌薬の予防的全身投与がある。しか し原因菌として MRSA が増加している中、推奨されている第一選択薬は第 1 世代もしくは第 2 世代セフェム系薬であ り、抗 MRSA 薬を術前にルーチンで予防投与することは日本のガイドラインでは現状推奨されていない3)。また MSIS により国際コンセンサスは策定されたものの、診断基準や確定診断に有用な検査、二期的再置換術を行う場合は、抜去 から再置換まではどの程度の期間をあけ、どの程度感染が鎮静化してから行うのかなどについて共通認識は構築されて おらず、PJI を診断・治療するにあたってはまだ曖昧な点が多い。
担当患者では現在人工関節は温存して治療を行っているが、抗菌薬治療が奏功しない場合や再燃を繰り返す場合には 再置換術が行われることとなる。その際は、患者が QOL や費用などを重視するならば Single-stage revision が、初回 手術成功率や感染再燃リスクを重視するならば Two-stage revision が実施されることが望ましいと考えられる。
Reference
1)Mandell , Douglas , and Bennett’s Principles and Practice of Infectious diseases Eighth Edition p.1328-1335 2)Christopher F. Wolf et al. Comparison of One and Two-Stage Revision of Total Hip Arthroplasty Complicated by
Infection The Journal of Bone & Joint Surgery 2011 April 6 ; 93(A) : 631-638 3)骨・関節術後感染予防ガイドライン 2015 日本整形外科学会
今回から寸評は省略します。本人にはフィードバックしています。負担増加のためですすみません。
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