脾摘患者に対して、どう感染予防をするべきか?
今回担当した患者は、脾摘後、XXX、脾摘患者に対して感染予防をどう行うべきか調べた。
脾臓は、血球の濾過機能、造血機能、免疫機能の役割を担っている。特に免疫機能に関しては、IgM産生,非オプソニン化細菌の除去,マクロファージ活性化因子であるtuftsinの活性化,補体の終末成分の活性化に関与するproperdin産生を担当しており,脾摘によってこれらの機能が低下するため,肺炎球菌,髄膜炎菌,Hib感染リスクは健常人の50倍にも上昇すると報告されている。そのうち,肺炎球菌感染が50~90%を占め,次にHib,髄膜炎菌の感染リスクが上昇する。1)脾摘患者における敗血症発症の全体のリスクは10年間で約7%であり、肺炎球菌性敗血症による致死率は50~80%である。2)
脾摘患者の感染症予防として、以下の3つの方法を考えた。
- 患者教育
脾摘患者は細菌感染感受性亢進に加え、寄生虫疾患のBabesia感染症にも罹患しやすく、Babesiaの流行地域(例えばマサチューセッツ州ケープコッド)を避けるよう指導する。2)OPSIの危険性の認識を促す。
- ワクチン接種
肺炎球菌, Hib,髄膜炎菌に対するワクチンは推奨されている。その投与タイミングは前回のワクチン接種時期によるが,肺炎球菌ワクチンは,PCV13の投与と,その後8週間あけてPPSV23の投与が推奨され,PPSV23単独投与よりも抗体産生が高まるとされている。Hib感染症は,成人や小学校高学年では少ないため,全例をHibワクチン(ActHIB®)接種の対象とせず,過去での未接種症例に限定する方針が推奨されている。髄膜炎菌ワクチンは,4価多糖類ワクチンの2回投与が推奨されている。インフルエンザは細菌感染のリスクを上昇させるため,毎年のインフルエンザワクチン接種が推奨されている。3)ただ日本では2015年4月より4価結合型ワクチン(Menactra®)のみ承認されているが、Menactra®はPCV13に干渉し抗原性を弱めるという報告があり、 ACIPはPCV13接種後に4週間空けるよう推奨している。4)
- 予防的抗菌薬投与
これについて論文・教科書で調べたが、予防的抗菌薬の統一された見解は見つからなかった。
成人ではルーチンの予防は推奨されないが、IPDの罹患歴があるヒトや高度の免疫不全者には予防内服を考慮してもよい。5)ただこれはup-to-dateの著者の一つの意見であり、予防的抗菌薬が適応かどうかは、今後大規模な研究が必要だと考える。
以上のことから、脾摘患者の感染予防として、患者教育・定期的なワクチン接種が有効であり、予防的抗菌薬につ
いては、今後研究が必要だと考える。脾摘患者にとって、細菌感染による致死率が健常人に比べて大幅に高いので、以上のような感染を未然に防ぐ対策が必要不可欠である。
【参考文献】
- Schaffner, William. 「Care of the Asplenic Patient」. New England Journal of Medicine 371, no. 4 (2014/7): 349–356.
https://doi.org/10.1056/NEJMcp1314291.
2)ハリソン内科学 第5版 p420-421
3) Sabatino, Antonio Di. 「Post-Splenectomy and Hyposplenic States」. The Lancet 378, no. 9785 (2011/7/22): 86–97.
https://doi.org/10.1016/S0140-6736(10)61493-6.
4) Amanda C. Cohn, Jessica R. MacNeil. 「Prevention and Control of Meningococcal Disease」. MMWR Recomm Rep.1-28. (2019/3/12)
https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr6202a1.htm.
5) Mark S Pasternack, MD.「Prevention of infection in patients with impaired splenic function」UpToDate
寸評 問題設定、文献検索と吟味、主張はするけど言い過ぎないクリティークと、ほぼ完璧なレポートでした。
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