YSQ 化膿性脊椎炎で外科的療法を要する基準はどこか
今回担当した患者は、MRSAによる化膿性脊椎炎を発症し、アンピシリンの投与を受けていた。化膿性脊椎炎を発症した症例には椎体形成術などの外科的療法が存在するが、現在のところ治療ガイドラインは存在せず、明確な外科的療法の適用基準はない。そこでどのような場合に手術の実施が検討されるのかを今回考えた。
昭和大学横浜市北部病院、尾又によると(1)、外科的治療が必要となる脊髄麻痺をきたす可能性が高いのは「糖尿病の罹患」、「65歳以上」、「診断の遅れ」であると指摘している。糖尿病に罹患した患者のうち手術療法を選択したのは38 %で、罹患していない患者の7 %に比べ高かった。これは糖尿病に伴う高血糖による免疫機能低下が関係していると思われる。ゆえに糖尿病に限らず悪性腫瘍や長期ステロイド使用時など、免疫不全が疑われる患者においても当てはまると考える。高齢による手術適応率の上昇については、脊柱管狭窄症や脊椎変形の存在により、占領病変による脊髄圧迫を引き起こしやすいためとされている。また発症から医療機関受診までの期間が長いほど、手術適応の割合が高くなっていることも指摘されている。(1週間以内で31例中2例、1か月以内で36例中4例、3か月以内で20例中5例)
またCan Yaldizによると(2)、脊髄前方からの手術を行った39名の患者のうち、30人で単純X線検査での椎体の破壊が確認された。これら39人の手術を受けた患者において、CTでは骨の破壊や軟部組織の破壊、MRIでは椎体のつぶれや破壊、膿瘍による脊髄や硬膜嚢の圧迫が見られた。このことから脊椎の破壊により体感を支える機能が落ちていること(脊椎不安定性)、膿瘍が形成されていること、脊髄圧迫に伴う激しい痛みや神経障害があることが手術適用の要因になると考えられる。
さらにSara Lenerらによると(3)、化膿性脊椎炎の初期治療は抗菌薬(クリンダマイシン+シプロフロキサシンまたはセフォタキシム+フルクロキサシリン)を2から4週間もしくはCRPの大幅な低下を認めるまで静注し、その後経口抗生物質を6から12週間投与であり、それにも関わらず身体症状や画像所見が悪化した場合に手術を検討するとしている。ここで挙げられている身体症状とは腰痛や神経障害のことで、画像所見については椎体の破壊や膿瘍の拡大が挙げられる。
以上より、化膿性脊椎炎において外科的療法を必要とする基準として挙げられるのは、抗菌薬治療のみで症状を抑えられるかどうか、化膿性脊椎炎の症状増悪のリスクファクター(免疫不全、年齢など)の有無、神経障害の増悪の有無、椎体破壊に伴う脊椎の不安定性の有無といった項目であると考えられる。しかしながら、これらの項目の有無にかかわらず、抗菌薬治療と併用した早期外科的療法の有用性(Tsaiなどによる研究で、早期外科的手術を行ったグループにおいて抗菌薬使用期間や入院期間の短縮、退院後の背部痛の度合いの低下が見られた)が示されており(4)、外科的治療を行うための基準そのものが形式的になっているのではないかと考えた。
参照URL
- 当院における化膿性脊椎炎100例の検討 昭和大学横浜市北部病院整形外科 尾又弘晃
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsma/72/6/72_615/_pdf
- A Retrospective Study of 39 Patients Treated With Anterior Approach of Thoracic and Lumbar Spondylodiscitis. Clinical Manifestations, Anterior Surgical Treatment, and Outcome/Can Yaldız, MD, Nail Özdemir, MD, [...], and Mustafa Minoglu, MD
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5058998/
- Management of spinal infection: a review of the literature./ Sara Lener,corresponding author1 Sebastian Hartmann,1 Giuseppe M. V. Barbagallo,2 Francesco Certo,2 Claudius Thomé,1 and Anja Tschugg1
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5807463/
- Early surgery with antibiotics treatment had better clinical outcomes than antibiotics treatment alone in patients with pyogenic spondylodiscitis: a retrospective cohort study
Tsung-Ting Tsai, Shih-Chieh Yang, [...], and Wen-Jer Chen
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5408454/
こんな人がオペ受けてました、という「過去の情報」をいくら積み上げても、「どんな人にオペすべきか」はわからない、比較が大事、という話をしましたね。
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