注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「PSCにおいて肝移植以外に有効な治療はあるか」
原発性硬化性胆管炎(PSC)は、肝内外の胆管に多発性・びまん性の狭窄が生じ、胆汁うっ滞をおこし、最終的には肝硬変、肝不全に進展する疾患である。様々な治療法に対する臨床試験が行われてきたが、これまでにこの疾患に対する明確な治療法はなかった。肝移植は、患者の生存期間を延長させる唯一の有効な選択肢として知られているが、新しい移植片では8.6~27%の再発率がある(1)(2)。今回、本当に肝移植以外に有効な治療はないのか疑問に思い、現在PSCに対する治療薬として注目されているUDCA、ベザフィブラート、抗菌薬の有効性について考察することにした。
ウルソデオキシコール酸(UDCA)には胆汁分泌促進作用や肝細胞保護作用があり、様々な胆汁うっ滞性疾患や慢性肝疾患で汎用されている。PSCに対して第一選択の薬剤となっており、2015年の全国調査(2)でも83%の症例で投与されている。PSCに対するUDCAの有効性について、多くの検討において血清ALP値の改善効果がみられるが、実際予後を改善するかについては意見が分かれている。高用量UDCA投与は生存率、肝移植までの期間、肝機能検査、QOLの有意な改善を認めないとの報告もある。(3)
また、脂質異常症の治療薬であるベザフィブラートのPSCに対する有効性も報告されている。Corpechot(4)らは、ベザフィブラートのUDCAとの併用効果を検証する二重盲検ランダム化比較試験を行った。ベザフィブラート併用群で24ヶ月後の総Bil値・ALP値・ALT値・Alb値・プロトロンビン指数が有意に正常化した。ベザフィブラート併用群でクレアチニン値の上昇(5%)、筋痛(20%)がみられた。UDCA無効患者の30%を治療できることを確認した。
PSCは遺伝因子、免疫学的因子、環境因子など複合的な要因からなる多因子疾患と考えられるが、近年その要因の一つとして腸内細菌叢の関与が注目されている。PSCの臨床的特徴として、高率(70%)でIBDを合併することが知られており【5】、この事実からも病態に腸肝相関が関与することが予想される。実際、海外を中心に腸内細菌を標的とした抗菌薬内服治療の前向き臨床試験が行われている。Tabibian【6】らは経口バンコマイシンとメトロニタゾールのPSCに対する効果と安全性を検証する二重盲検ランダム化比較試験を行った。バンコマイシン、メトロニダゾールの両方が有効性を示したが、バンコマイシン群でのみ血清ALP値を有意に低下させ、副作用が少ないという結果になった。また、Rahimpour(7)らは経口バンコマイシンの有効性を評価する目的で、イランの29人の患者を対象に三重盲検ランダム化比較試験を実施した。バンコマイシン群で3ヶ月後のPSC Mayoリスクスコアの平均値の有意な低下を示し、血清ALP値の有意な減少を示した。さらに赤血球沈降率、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ、疲労、掻痒、下痢、食欲不振を含む症状はバンコマイシン群で有意な改善を示した。
以上より、肝移植以外の治療法で生存期間を有意に延長させるという文献は見つからず、現時点ではUDCA、ベザフィブラート併用、バンコマイシン併用ともに血清ALP値の有意な減少を認めたが、現時点では生化学的検査や身体症状などの間接的な予後指標でしか測定できていない。生命予後を改善させうるのは現段階では肝移植だけである。
参考文献
- Visseren T, et al. Recurrence of primary sclerosing cholangitis, primary biliary cholangitis and auto-immune hepatitis after liver transplantation. Best Pract Res Clin Gastroenterol. 2017 Apr;31(2):187-198.
- 田中篤,ほか. 硬化性胆管炎・IgG4関連硬化性胆管炎の疫学.胆道 2016;30:304-311
- Olsson R, et al. High-Dose Ursodeoxycholic Acid in Primary Sclerosing Cholangitis: A 5-Year Multicenter, Randomized, Controlled Study 2005 Nov;129(5):1464-72.
- Christophe Corpechot, M.D., et al. A Placebo-Controlled Trial of Bezafibrate in Primary Biliary Cholangitis The New England Journal of Medicine 2018;378:2171-2181
- Weismüller TJ, et al. Patient Age, Sex, and Inflammatory Bowel Disease Phenotype Associate With Course of Primary Sclerosing Cholangitis. 2017 Jun;152(8):1975-1984.e8.
- Tabibian J, Weeding E, Jorgensen R, et al. Randomised clinical trial: vancomycin or metronidazole in patients with primary sclerosing cholangitis‐a pilot study. Aliment Pharmacol Ther 2013; 37: 604-612.
- Rahimpour S, et al. A Triple Blinded, Randomized, Placebo-Controlled Clinical Trial to Evaluate the Efficacy and Safety of Oral Vancomycin in Primary Sclerosing Cholangitis: a Pilot Study. J Gastrointestin Liver Dis. 2016 Dec;25(4):457-464.
寸評:これもなかなかに面白いテーマ。故に答えが出ない。結論がかっこよかったです。
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