注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
BCG注入療法において、BCG感染症となるリスク因子は何か、またどのように診断していくか。
膀胱癌に対するBCG注入療法は一般的に行われており、合併症として膀胱結核や播種結核へのリスク因子やその診断に興味をもち調べた。
《BCG感染症とは》高リスクの表在性膀胱癌や上皮内がんに対しては再発予防の観点からBCGを直接膀胱内に注入する治療が一般的になってきている。1,4)BCGとはウシ型弱毒結核菌のことで、Mycobacterium bovisの生ワクチンのことである。明確な機序は分かっていないが、局所の様々な免疫反応を惹起し、抗腫瘍作用を発揮しているとされる。M.bovisという抗酸菌を直接注入するので、それに伴った感染症という副作用が危惧される。BCG感染症は局所の尿路感染症と全身性の感染症に分かれる(以下表参照)。
局所感染症 |
尿路感染症 |
膀胱炎、前立腺炎、精巣上体炎、腎盂腎炎 |
全身性感染症 |
播種性感染症 |
敗血症、粟粒結核、骨髄浸潤 |
|
筋骨格系感染症 |
骨髄炎、関節炎、筋膿瘍 |
|
肝臓 |
肝炎(肉芽腫性)、肝膿瘍 |
|
血管系 |
感染性動脈瘤、人工血管感染症 |
|
その他 |
粟粒結核以外の肺病変、眼内炎など |
《リスク因子》今日まで膀胱内注入後のBCG感染を発症させる素因のある因子は、まだ十分に特徴づけられていない。歴史的に、注入の際の損傷または同時性尿路感染症などのBCG投与時の下手な技術は、主要な危険因子とみなされてきた。Linnらの報告によると、全身性化学療法、放射線治療、免疫抑制剤の使用、腎不全および低栄養などによる免疫機能の低下が危険因子として挙げられる2)。Mariaらは加えて、BCG関連合併症を発症する確率は、感染の有無とBCG注入回数に関連はなく、BCGの量、治療コースの数、または前回のTURからの経過時間よりも、主に患者本人の特徴(すなわち、主要な膀胱粘膜損傷の存在または特定の患者背景)や注入技術の精度に依存すると報告した。喫煙は尿路上皮癌のよく知られた危険因子であるため、BCG免疫療法を受けている患者は重度の喫煙者であることが多く、びまん性アテローム性動脈硬化症の重大なリスクに直面している。Mariaらが確認した19例の血管合併症の多くは感染性動脈瘤、疑似動脈瘤または人工血管の感染症の形態をとっていた。Mariaらが行ったプール解析では、副腎皮質ステロイドおよび細胞増殖抑制剤の投与、HIV感染、および機能しない移植片を伴う以前の腎臓移植などの免疫抑制状態の患者(1.8%)は罹患率が低く、残りの患者と比較して、より重度のBCG感染症に苦しんでいなかった。この被験者は、被験者の数が少なく、根底にある状態の性質が異質であることによって制限されるが、膀胱内BCGは免疫抑制宿主において実行可能な治療選択肢であると考えられるべきである。理論的には高齢者はBCG注入療法を受けた後に合併症の危険性が増加するため70歳以上の患者には予防的BCG療法を注意深く行うべきであると提唱している研究者もいるが、Mariaらによると、80歳以上の患者で、若年患者と比較して無病率は相対的に低かったが、重度の合併症の発生率に相関はなく年齢と全身感染の発症との間に明らかな関連性は見出されなかった1) 。
《診断》まずBCG感染症をいつ疑うかに関してだが、BCG注入療法後24~48時間以内の中等度の排尿とインフルエンザ様症状は、BCGによって免疫反応を誘発したと説明できる。対照的に、BCG感染症は、明らかな原因なく中等度~高度の泌尿器・全身症状(38℃以上の高熱が72時間以上続くなど)が、以前BCG注入療法をした人ならだれでも起こすといったものである。診断へのアプローチは、血液、喀痰、気管支肺胞洗浄、膿瘍ドレナージ、関節液など臨床所見に基づいた微生物学的診断のためのサンプルをとること、尿培養からでたM.bovisが陽性予測所見である可能性が低いこと、可能であれば、肉芽腫性感染症を区別するために、培養するための生検組織や組織学的検査をすること、全身性の症状がある場合は、粟粒結核をruled outするために、胸部の画像検査(レントゲンよりCTのほうが好ましい)をすること、臨床像に合致するような鑑別疾患を除外することなどがあげられる1)。
《考察》BCG感染症のリスク因子は、主要な膀胱粘膜損傷の存在や喫煙といった患者本人の特徴や注入技術の精度にあり、血液、喀痰、気管支肺胞洗浄、膿瘍ドレナージ、関節液など微生物学的診断のためのサンプルをとること、生検、組織学的検査、CT撮影が診断に有用であると分かった。Mariaらの研究のlimitationとして単施設での研究でデータに不完全な部分が多く、プール解析は基となるデータが混成であることが挙げられる1)。またLammらの研究で、膀胱内BCGで治療された患者で最も多かった合併症は孤発熱であったが、文献で報告された症例は2例のみであった3)ように、より厳しい経過をたどる症例に有利な出版バイアスを排除することはできない。フォローアップが不十分なため、長期合併症の割合は過小評価される可能性もある。この合併症の危険因子およびその最適な治療法に正確に対処するために、将来の多施設共同研究が行われるべきであると考えた。
《参考文献》
1.María Asunción Pérez-Jacoiste Asín, MD et al: Bacillus Calmette-Guerin (BCG) Infection Following Intravesical BCG Administration as Adjunctive Therapy For Bladder Cancer
- Linn R,et al :Persistent acid-fast bacilli following intravesical bacillus Calmette-Guerin. J Urol 141:1197-1198,1989
- Lamm DL, Meijden AD et al:Incidence and treatment of complication of BCG intravesical therapy in superficial bladder cancer
- http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03258_04
寸評:テーマは非常に面白い。が、面白いテーマはたいてい答えが出ない。上手に取っ組み合ったとは思います。特に診断は難しいですよね。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。