注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
『PADを背景に持つ患者の骨髄炎の治療にEVTはどの程度寄与するか』
PAD(末梢動脈疾患)は大動脈や四肢の動脈に狭窄や閉塞をきたす臨床疾患として定義される。EVT(Endovascular Treatment)とは血管内治療でありPADの治療において選択される血行再建術の一つである。1)
PADを背景に持つ骨髄炎患者を対象にEVTを行い検討した論文は見つけることができなかった。そこで病態が類似していると考えた、PADを背景に持つ足感染である糖尿病足感染患者を対象に血管内治療を行い検討した論文を探した。
2014年1月から12月の間に、DFI(糖尿病足感染)患者48人が同一施設で早期の血管内治療による血行再建および局所外科治療を受けた。すべての症例において、血管内治療による血行再建および局所外科治療が感染の診断から1週間以内に行われた。生存率、一次開存率(一度の治療で血管に再狭窄や閉塞がない)、二次開存率(再度治療を加えて血管が開存している)、TLR(標的血管の再狭窄)の不在、およびKaplan-Meier分析を用いて分析した救肢率に関して1年後の結果を評価した。生存率、一次開存率、二次開存率、TLRの不在、および救肢率はそれぞれ83.5%、53.4%、65%、60.7%および86.6%であった。筆者のTroisiらはこの結果から早期の血管内治療による血行再建および局所外科的治療を行うことは、DFI患者の救肢に貢献すると結論づけている。2)
また、Uccioliらは510人の糖尿病足潰瘍患者に対して迅速かつ広範な初期デブリドマン、末梢血管形成術の積極的な利用、抗生物質療法を行った。そのうち、456人に対して血管内治療の一つである経皮的血管形成術が行われ(PA+群)、54人には行われなかった(PA-群)。治癒、非治癒、主要な切断、死亡切断までの期間について評価された。治癒は解放創の全ての上皮が被覆されていることと定義され、PA+群では284人(62.3%)、PA-群では26人(48.1%)であった。主要な切断は足首より上の切断と定義され、PA+群で 67人(14.7%)、 PA-群で13人(24.1%)であった。1年後に死亡していたのはPA+群で68人(14.9%)、PA-群で15人(27.8%)であった。非治癒は1年間のフォローアップ後に切断する必要はないが治癒していない潰瘍と定義されPA+群で 37人(8.1%)、PA-群で0人(0%)であった。切断が行われるまでの期間はPA-群で 1.2±1ヶ月、PA+群で5.2±1ヶ月であり、PA-群で有意に短いとされた。(P<0.01)筆者らは虚血性および感染性潰瘍における経皮的血管形成の広範な使用が切断のリスクの高い四肢のアウトカムの改善をもたらすとしている。3)
以上より、血行再建を行うことでPADを背景に持つ糖尿病患者の救肢率は改善されると考える。しかし、糖尿病患者の足感染の背景にはPAD以外に末梢性の運動、感覚、自律神経障害や血糖コントロール不良などがあるため、1)単純にPADのみを背景に持つ患者に当てはめることはできない。また、潰瘍の治癒に関してもEVT、デブリドマン、適切な抗菌薬使用の複合的な結果であることを考慮する必要があると思われる。EVTがPADを背景に持つ感染の治療にどの程度寄与するのか明確に述べることはできないが、治療の選択肢の一つとして挙げられると考える。
参考文献
1) ハリソン内科学 第5版
2) Nicola Troisi et al. Diabetic Foot Infection: Preliminary Results of a Fast-Track Program with Early Endovascular Revascularization and Local Surgical Treatment Ann Vasc Surg 2016; 30: 286–291
3) Uccioli L, Gandini R, Giurato L, et al. Long-term outcomes of diabetic patients with critical limb ischemia followed in a tertiary referral diabetic foot clinic. Diabetes Care 2010;33: 977e82.
寸評:「どの程度」問題は「ありなし」問題よりも高級です。よく頑張りました。ランダム化の本質的な価値もわかりましたね。
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