注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート
「血管内人工物に感染を起こし、抜去後に再留置する場合、再感染のリスクが高い期間はどれくらいか」
今回調べてみたところ、血管内に留置する人工デバイスの種類は中心静脈カテーテルや末梢血管カテーテル、人工弁、ペースメーカーなどの心臓埋込型電子デバイス(CIED)、血管内ステントグラフトと多岐にわたり、またデバイス毎の治療戦略も細分化していることがわかり、一概に論じるのは難しいと考えた。そのため、その中でも私の担当患者が抜去を検討されているCIEDと血管内ステントグラフトに限って考察することとする。
ペースメーカー、植え込み型心臓除細動器を含むCIEDに関連する感染症は、特に感染性心内膜炎にまで発展する場合、全死亡率が35%にまで達する重篤な感染症である。1) CIED関連の感染を疑った場合、抗菌薬療法、CIEDの全抜去が推奨されているが、その後70~77%の患者が新しいCIEDを必要とし、再留置が行われる。その際の再感染のリスクが高い期間を調べることで術後フォローアップ期間の目安になると考えた。
Saeedらは2001年から2012年までのCIED感染によるデバイス抜去後に再留置をした168人の患者を後ろ向きにレビューした。2)対象患者のうち9人(5.4%)が再感染を起こし、CIEDの再抜去を行った。再感染を起こした9人のうち6人が再留置から1年以内に再感染を起こした。再感染の最短発症は14日、最長発症は3455日であった。再感染発生率は再留置後1年間が3.9%で全経過期間中の年間総発生率1.2%に対して3倍以上と高く、1年以内での再感染のリスクが高い傾向にあった。
また Boyleらの2009年から2012年までの複数の施設における前向き研究ではCIED感染症を有する434人の患者のうち、381人(87.8%)にデバイスの全抜去がなされ、220人(57.7%)に新しいデバイスが再留置され、そのうち4人(1.8%)が再感染した。3)4人の再留置からの再感染発生日は1ヶ月後が1人、4ヶ月後が2人、5ヶ月後が1人であり、再留置後4-5ヶ月間が多い傾向にあった。
次に血管内ステントグラフトについてはLi らの1991年から2016年までのメタ解析が探した範囲で最大規模であった。4)グラフト感染をおこした402人のうち359人(90%)が外科的治療を受け、そのうち6人がステントグラフトの再留置を受けていた。6人の患者の転帰を辿ると1人は18ヶ月の間再感染なし、1人は周術期に死亡、5)1人1日後死亡、1人1ヶ月後死亡、1人出血のため9ヶ月後死亡、6)1人生存詳細不明7)という結果で再感染について言及する報告はみられなかった。この他にも症例報告を探してみたが、ステントグラフト感染によってデバイスを抜去した後、再留置し且つ再感染を起こした症例を見つけることができなかった。報告が少ない理由として、Liらが報告するように血管内グラフト感染を起こした場合、予後がよりよいとされる外科的治療であっても死亡率は42%に達し、さらに外科的治療の88%が開胸人工血管置換術またはバイパス術を受けており、血管内グラフト再留置の例はいずれも動脈瘤破裂や瘤の進行に対する救命処置として行われており、再感染を論じる以前に死亡率が高いことが考えられる。また、ステントグラフトは比較的新しいデバイスで、留置後の感染は発症率が1%未満と言われており、8)現在の所比較的稀な病態である。
血管内人工物とひとくくりにしてみたものの、CIEDと血管内グラフトで感染による死亡率が大きく異なるため、一概に述べるのは難しい。CIEDについては数が少ない報告の中で少なくとも半年から1年が再感染のリスクが高いと結論づけた。しかし、当初の目的である術後フォローアップ期間の目安の根拠とするには条件該当患者数が少なく信頼性は不十分である。今後、対象患者数を更に大規模にした前向き研究が期待されるが、発症率が少ないため、少なくとも単一施設で症例数を集めるのは困難と予想される。
血管内グラフトについてはそもそも初回での予後が悪いため再感染の頻度について論じるのが難しいと結論づけた。
- Sandoe JA, Barlow G, et al: Guidelines for the diagnosis, prevention and management of implantable cardiac electronic device infection. J Antimicrob Chemother. 2015 Feb;70(2):325-359
- Saeed O, Gupta A, Gross JN, Palma EC, et al: Rate of Cardiovascular Implantable Electronic Device (CIED) Re-Extraction after Recurrent Infection. Pacing Clin Electrophysiol. 2014 Aug;37(8):963-968
- Thomas A. Boyle, Daniel Z. Uslan, et al: Reimplantation and Repeat Infection After Cardiac-Implantable Electronic Device Infections: Experience From the MEDIC (Multicenter Electrophysiologic Device Infection Cohort) Database. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2017 Mar;10(3)
- Li HL, Chan YC, Cheng SW. Current Evidence on Management of Aortic Stent-graft Infection: A Systematic Review and Meta-Analysis. Annals of Vascular Surgery. 2018 Aug;51:306-313
- Laura Capoccia, et al: Preliminary Results from a National Enquiry of Infection in Abdominal Aortic Endovascular Repair (Registry of Infection in EVAR - R.I.EVAR). Ann Vasc Surg. 2016 Jan;30:198-204
- T Lyons, et al: A 14-year Experience with Aortic Endograft Infection: Management and Results. Eur J Vasc Endovasc Surg. 2013 Sep;46(3):306-313
- Paul Cernohorsky, et al: The relevance of aortic endograft prosthetic infection. J Vasc Surg. 2011 Aug;54(2):327-33
- Eric Ducasse, Annalisa Calisti, et al: Aortoiliac Stent Graft Infection: Current Probrems and Management. Annals of Vascular Surgery. 2004 Sep ;18(5) :521–526
寸評;難問によく挑戦しました。カテゴリーを同じ、違うと判定するのも難しいですね。
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