注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
S. apiospermum はScedosporium属に含まれる糸状菌で,土壌や水中にも生息し、免疫不全者に深在性真菌症を発症する頻度が高い.S. apiospermumは肺炎,脳膿瘍,髄膜炎などの全身播種性感染症を引き起こし、アスペルギルス症と比較して死亡率が高い。現在、S.apiospermumに対する十分な抗真菌活性をもつ薬剤は中枢神経への移行性が良いVoriconazole(VRCZ)のみであるが、症例数の少なさから、適切な投与量について論じた報告は少ない。VRCZは濃度依存性の抗真菌薬であり、投与開始早期に負荷容量を必要とする。VRCZは侵襲性アスペルギルス症(IPA)とS.apiospermumの第一選択で、どちらの疾患においても、静注では初日負荷容量6mg / kg12時間ごと、維持容量3〜4 mg / kg12時間ごとで、経口では初日負荷容量400mg12時間ごと、維持容量200 mg 12時間ごとの推奨投与法である。IPAのみ反応率改善及び副作用抑制を目的として4日目のトラフ濃度を1.0~5.5㎎/Lにすることが推奨されている。また,VRCZは CYP2C19 で代謝されるが,日本人には CYP2C19 活性が低いpoor metabolizer(PM)の頻度が高く血中濃度が高くなり、副作用が出やすいことが指摘されている.1)
津波肺の原因となる新興真菌症として知られるS.apiospermumだが、選択できる薬剤が少ないうえに、投与方法も正確には確立していないという点に興味を持ち、副作用に注意して効果を得るためには、S. apiospermum に対するVRCZのトラフ濃度をどの値に設定すればよいかを考察するに至った。方法としては、同じくVRCZが第一選択である侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)のトラフ濃度についての研究と、症例数は少ないがS. apiospermumに対してVRCZを投与した症例報告をもとに考察した。トラフ濃度の上限に関しては副作用出現域に関する報告、トラフ濃度の下限に関しては有効治療域に関する報告から考察した。
副作用抑制の観点からは、IPAに対するVRCZのトラフ濃度の5.5㎎/Lという上限をS.apiospermumに対しても適応させても良いと考えるが、この5.5という値は、主に海外の研究によって裏付けられているため、CYP2C19 活性が低い頻度が高い日本人では5.5以下に設定しなければ、血中濃度が上がりすぎる可能性がある。添付文書の記載では、日本人健康成人においては、肝機能障害が発生した症例で、かつ、血漿中濃度が測定されていた症例の血漿中濃度トラフ値はいずれも4.5μg/mL以上であった。2)とある。また、Pascual Aらによるヨーロッパでの多変量解析を用いた55人の患者に血漿濃度測定を実施した薬物動態解析では、VRCZトラフ濃度1.5mg / Lで>85%以上の応答を、4.5mg / Lで15%未満の神経毒性を得た。3)
また、VRCZ の有効治療域に関しては、トラフ濃度目標を1.0 μg/mLにすると、のちに増量しなければ効果が得られなかったとの報告も多く4)、トラフ濃度の下限は1.0μg/mLより大きく設定する必要があると考える。国内でVRCZの薬物血中濃度モニタリング(TDM)を行ったS.apiospermumの1症例を見ると、推奨の維持量では効果が得られず、投与量を倍の 400mg12時間ごとに増量すると、増量後7日目のトラフ 値 3.13μg/㎖と測定され、喀痰・咳 嗽は著明に改善し,解熱も得られた。5)と報告されている。
以上より、S.apiospermumに対するVRCZのトラフ濃度の目標値は、下限は1.0㎎/Lより大きく、上限は4.5㎎/Lより小さく設定することが望ましいと考察する。経口か静注か、免疫不全患者なのか正常免疫患者なのか、CYP2C19活性がどの程度なのかなどの様々な交絡因子を踏まえてS.apiospermumに対するVRCZのトラフ濃度を決定する必要があるが、日本国内での症例数は少なく、TDMが日本国内で普及していないことから、IPAに対するトラフ濃度の報告を参考にした。このため、はっきりとしたトラフ濃度の目標範囲を定めるには至らなかったが、この考察を行うことで、臨床現場では患者一人一人薬物の代謝の程度が異なる故に、副作用発現と治療効果を確認する指標としてTDMを行うことは有効であると確認できる。
- Voriconazole therapeutic drug monitoring in patients with invasive mycoses improves efficacy and safety outcomes.
( Clin Infect Dis. 2008 Jan 15)Pascual A1, Calandra T, Bolay S, Buclin T, Bille J, Marchetti O.
2)ボリコナゾール錠添付文書
3) Challenging recommended oral and intravenous voriconazole doses for improved efficacy and safety: population pharmacokinetics-based analysis of adult patients with invasive fungal infections.( Clin Infect Dis. 2012 Aug)
Pascual A, Csajka C, Buclin T, Bolay S, Bille J, Calandra T, Marchetti O.
4)抗真菌薬ボリコナゾールを安全に使用するための 薬物動態パラメータの検討
花井雄貴、木村伊都紀、横尾卓也、西村功史、植草秀介、松尾和廣、小杉隆祥、西澤健司
5)ボリコナゾール血中濃度測定が有用であった肺スケドスポリウム症の 1 例
緒方 良、萩原 恵里、椎原 淳、小倉 高志、高橋 宏、亀井 克彦
寸評:いいでしょう。TDMはシンプルなようで、案外難しいですね。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。