注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
人工血管置換術後の再開胸手術は初回手術例と比較して
どのくらい術後感染症のリスクが高まるか
人工血管置換術は主に大動脈解離や大動脈瘤の治療法として行われている。その治療成績は一般的に良好だが中には人工血管置換後に再度開胸手術を行わなくてはならない例もある。その理由としては仮性動脈瘤、グラフト感染などが上げられる。1)このような再手術を行うとき、術後感染症のリスクはどの程度なのか考察した。
Kobuchらは、Type A大動脈解離の治療を受けた228例のうち再手術適応となった23の症例についてコホート分析を行った。この報告においては全ての患者が初回手術として上行大動脈置換術をしている。結果は、再手術を受けた23人のうち1人が周術期に心不全のため死亡したが、残る96%は手術成功となった。1例(約4.3%)で重症グラフト感染によって再々手術となったが、それ以外では術後感染症は見られなかった。初回手術例での重症グラフト感染は5例(約2.2%)であった。有意差に関しては論文記載がなかったので自分でΧ2検定を行ったところ感染症発生率に有意差はなかった。2)結果は良好に見えるが、この報告においては初回手術後228例の5年生存率が約75%であるのに対して再手術後23例の5年生存率は約95%となっていた。こちらも計算してみると有意差があり、そもそも術前の健康状態が2つの群で差があると考えられる。再手術適応となった患者は二度目の手術に耐えられると判断されたということなので、大動脈解離を起こした患者の中では比較的健康状態が良好で、感染などの術後合併症を起こしにくいということかもしれない。
一方Silvaらは上行大動脈または大動脈洞の初回手術と再手術のアウトカムを比較した。この研究において再手術群は初回手術群と比べて脳卒中、心内膜炎の既往やEuoroSCOREが有意に悪いにもかかわらず、術後の院内死亡率や縦隔炎を含む主な合併症発生率に有意差はなかった。この研究においては術後3年生存率が再手術群は初回手術群より有意に悪かった。3)再手術群のほうが術前状態が悪いにもかかわらず感染発生率に有意差がないことから、再手術であることがリスク因子であるとは言えない。
この2つの論文から私は再手術であることが術後感染のリスクを高める因子とは言えないだろうと考える。最初の論文においては再手術がやや感染率を高めたように見えるが、術前状態を比較する要素が5年生存率しかなかったため、正しく評価できない。2つ目の論文においては術前状態を様々な要素で比較していることからある程度信頼の置けるデータだと考えた。ただ、どちらの研究も術前状態に差がある群同士の比較となっているので、今後行われる研究においては術前状態がほぼ同じ群の比較を行ってほしい。再手術のリスクベネフィットを正しく評価するためにも今後の研究に期待する。
- The European Society of Cardiology. 2014 ESC Guidelines on the diagnosis and treatment of aortic diseases. European Heart Journal (2014) 35, 2873–2926
- Reinhard K et al. Late reoperations after repaired acute type A aortic dissection. J Thorac Cardiovasc Surg.2012 Aug;144(2):300-7
- Jacobo S et al. Ascending Aorta and Aortic Root Reoperations: Are Outcomes Worse Than First Time Surgery?.Ann Thorac Surg.2010 Aug;90(2):555-60
寸評:レポートとしてはまあよくできていると思います。
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