注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
先天性心疾患(CHD)を有する患者ではIE発症リスクが高いことは知られているが、その理由としては、血流の乱流、jet lesionなどにより内膜損傷が起こりやすいことや、外科手術時に使用される人工物の表面に菌が付着しやすいことなどが挙げられる1)。さらにCHD患者の中でもIEを発症した際に重症化しやすいのは主に人工弁術後、IE既往をもつ場合、未修復チアノーゼ型CHD、人工弁を用いて修復したCHD(修復後6ヶ月以内)、人工弁を用いて修復したが修復部分に遺残病変を伴う場合、大動脈縮窄症などが報告されており、2) 特に未修復チアノーゼ型CHDでは心室中隔欠損症、大動脈弁狭窄/閉鎖不全症、大血管転位症、動脈管開存症の順にリスクが高い。3) このようなCHD患者に限らずIEを発症した場合は早期手術を行うほうが予後は優れているということはすでに明らかにされており4)、それゆえ重症化しやすい高リスク所見を持つ場合は早急に手術介入を行ったほうが予後は良いとされている。そこで、高リスク所見を有さないCHD患者の場合は手術療法と保存療法どちらが適切なのか気になったため、今回レポートのテーマに設定した。
高リスク所見については、①疣腫≧10mm、②心不全の存在、③起因菌がStaphylococcus aureusであることなどがいくつかの論文で報告されていたため、今回はその3つを高リスク所見と定義することにする。これを踏まえて、①疣贅のサイズ別、②心不全の有無、③起因菌別の3点から、CHD患者において手術療法と保存的療法を比較した論文をそれぞれ探したが、先述したように現在は手術療法がスタンダードになっているためか、両者を比較している論文は発見できなかった。しかし、日本で小児心臓外科学会と心臓外科医らのグループにより行われた後ろ向き観察コホート研究5)では高リスク所見の有無の点からは検討されていないものの、手術療法がIEを発症したCHD患者の院内死亡率を減らすと報告されていた。この研究では1997年1月から2001年12月までに修正Duke基準でIEと確定診断されたCHD患者137名(中央値12歳(1ヶ月~62歳))を対象に院内死亡率を上げるリスク因子が研究されており、ロジスティック回帰分析の結果、IE治療のための手術介入は院内死亡率を下げると統計的に証明されている(オッズ比 0.045 ( 95%CI:0.003-0.70 ) )。また、小児CHD患者に限定すると、丹羽らの研究3)では手術療法と保存療法では死亡率は同等であると報告されていた。この論文では対象に成人CHD患者を含んでいないため、前者とは異なる結論に至ったと思われる。以上より、小児CHD患者では手術療法と保存療法による差はないが、成人CHD患者では手術療法のほうが適切であると考えられる。
今回はこの2つしかテーマに沿った内容を含む論文を見つけられておらず、上記の論文でも高リスク所見の有無によって手術療法後の死亡率がどう異なるのかまでは比較されていないことから十分な考察はできなかった。よって、手術療法と保存療法をCHD患者で高リスク所見の有無別に比較した、さらなる研究が今後行われることに期待する。
1)中谷 敏ほか:感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017年改訂版)
2)日本小児循環器学会研究委員会:小児心疾患と成人先天性心疾患における感染性心内膜炎の管理、治療と予防
ガイドライン【ダイジェスト版】
3)Niwa K, Nakazawa M, Tateno S, et al:Infective endocarditis in congenital heart disease : Japanese national
collaboration study. Heart 2005; 91: 795-800
4) Kang DH, Kim YJ, Kim SH, et al: Early surgery versus conventional treatment for infective endocarditis.
N Engl J Med. 2012 Jun 28;366(26):2466-73
5)Yoshinaga M, Niwa K, Niwa A, et al:Risk factors for in-hospital mortality during infective endocarditis in
patients with congenital heart disease. Am J Cardiol 2008; 101 : 114-118
寸評;これも良いテーマです。そして良いテーマほど答えは見つからない。
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