注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
糖尿病でコントロール良好の患者でも易感染性を示すのか
糖尿病は生活習慣病のひとつとして広く認識されており、糖尿病の合併症も問題視されている。その中で糖尿病患者のもつ「易感染性」は臨床上大きな課題となっているが、実際血糖コントロールが与える影響はほとんど知られていない。そのため血糖を上手くコントロールすることで感染症を回避することはできるのか臨床的な観点と免疫学的な観点より調べてみた。
糖尿病の病型には1型糖尿病、2型糖尿病、(ステロイド糖尿病など)二次的な糖尿病があるが、今回はその中でも罹患数の多い2型糖尿病1)でのコントロール良好群、不良群について比較した。
血糖コントロールとリスクの関係性を調べるために、デンマーク北部において2000年から2012年に糖尿病2型と診断された69,318例のデータを用いてコックス回帰分析が行われた[2]。糖尿病と初めて診断された時のHbA1c値、平均HbA1c値、時間加重平均HbA1c値、最新のHbA1c値とそのうちプライマリケアで抗菌薬治療を受けた感染症、病院で治療された感染症についての比較が行われている。プライマリ治療の感染症について、HbA1c≧10.50%群と対象の5.50≦HbA1c≦6.49%群の調整ハザード比は、初診時HbA1cで0.97(95% confidence interval(CI):0.94,1.00)、平均HbA1cで1.09(95% CI:1.03,1.14))、時間加重平均HbA1cで1.13(95% CI:1.08,1.19)、最新HbA1cで1.19(95% CI:1.14,1.26)であった。同様に病院で治療された感染症に対し、それぞれの調整ハザード比は、1.08(95% CI:1.02,1.14)、1.55(95% CI:1.42,1.71)、1.58(95% CI:1.44,1.72)、1.64(95% CI:1.51,1.7)であった。
この研究により、2型糖尿病では、特に直近の血糖コントロールが感染のリスクを減らすのに効果的であることがわかった。またはじめの血糖値が悪くても、治療により血糖値をコントロールすることの意義が伺える。
この研究には問題点が2つある。まず1つは糖尿病に関しては病院で測定されたHbA1c値だけを追っているのでライフスタイルや衛生環境には介入していないことである。次に血糖値が感染に影響を与えることを前提としているが逆のパターン、すなわち、感染によって血糖値が上昇しうるということを考慮していないことがあげられる。
また免疫学的な機序についての研究も行われている[3]。糖尿病患者30人と健常人12人の白血球を採取し、白血球の殺菌能を調べるためStaphylococcus aureusの細菌浮遊液と白血球浮遊液を混合し、それぞれ、0,60,120,180分後に混合液中の残存生菌数を比較した。糖尿病患者の白血球の殺菌能は健常人に比べ、30分値22.21±8.41%(p<0.05),120分値5.95±3.07%(p<0.001),180分値3.97±2.31%(p<0.01)と有意に低下していた。また、HbA1c別にみた糖尿病コントロールの良し悪し別に殺菌能を見ると、fair群(8%≦HbA1c<10%)、poor群(10%≦HbA1c)はgood群(HbA1c<8%)に比べ、すべての時間で低下傾向にあった。このことで、白血球の殺菌能という免疫学的な面からも、糖尿病コントロールが感染性を左右することがわかる。
以上より、2型糖尿病の血糖コントロールが感染のリスクを上下させること、初期のHbA1cの値より、そこからいかに改善されたかの直近の血糖値が重要であることがわかった。このことは 糖尿病患者が治療を行う上での一つの動機付けになるかもしれない。また、二つの研究でコントロール良好とするHbA1cが大きくことなるがHbA1cのどの値までを厳密にコントロール良好と呼ぶべきか、あるいは今回は言及していないが糖尿病に罹患していない健常者と比べると感染のリスクはどうなるかについても今後調べていきたい。
参考文献;
[1]ハリソン内科学第5版
[2]Anil Mor, Olaf M.Dekkers, Jens S.Nielsen,Henning Beck-Nielsen, Henrik T.Sorensen,Reimar W.thomsen, Impact of Glycemic Control on Risk of Infections in Patients With Type 2 Diabetes: A Population-Based Cohort Study, American Journal of Epidemiology.2017;186(2):227-236
[3]Yoshihiro Kumasaka, Hisashi Nakahata, Yuichi Hirai, TOmio Onuma, Mikihiko Kudo, Kenichi Imamura, Kazuo Takebe, Hazime Kudo; Phagocytic and abactericidal Activity of Polymorphonuclear Leukocytes in Diabetics
寸評;信頼区間は大事、という話をしましたね。糖尿病がある「だけ」では実は大きなリスクにはなりません。有意差よりもリスク差のほうが大事。、
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