注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
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心臓血管外科領域での術後膵炎発症はなぜ起こるのか。
またその術前リスク因子は何か。
人工心肺を用いた心臓血管外科領域の手術後合併症として膵炎があることは既知であり、ハリソン内科学には、急性膵炎の原因として心臓手術があるということが記載されていた。しかしそれがなぜ起こるのか、またそのリスク因子としては何があるのかということについて疑問が生じた。
人工心肺を用いると、膵臓を含む臓器は虚血に伴う組織低酸素となり、また膵臓血流の有意な減少がない場合でさえ、膵脾臓領域の機械的圧縮を引き起こす。そもそも虚血は、細胞内および筋ミトコンドリアのカルシウム濃度の増加に関連している。動物実験において、腺房内カルシウム濃度の上昇は、腺房障害を伴った上でトリプシノーゲンを活性化し、低血圧誘発性膵臓損傷および膵微小循環における好中球活性化を引き起こすことが報告されている。[1]
Fernandez-del 氏らによって心臓手術後に膵炎と最も強く関連する因子を特定するための前向き研究が行われ発表された。[2] 対称群は心臓手術を受けた300人で、冠動脈バイパス術が234例、大動脈弁置換術が56例、僧帽弁置換術が47例であった。膵臓細胞傷害(以下PCIと略す)郡は高アミラーゼ血症(>123U/l)があり、高リパーゼ血症(>24U/L)あるいはイソアミラーゼピーク値の上昇のうち1つ以上を満たしている患者とした。PCIは80人の患者(27%)で認められ、3人は重度の膵炎を有していた。2人は膵臓膿瘍、1人が壊死性出血性膵炎であった。多変量解析により、術前腎不全(OR=4.3)、弁手術(OR=2.2)、術後低血圧(OR=1.00)、および塩化カルシウムの周術期投与(800mg投与でOR=2.65、1500mg投与でOR=6.2)がPCIの発生に有意に関連していた。やはり特に単位体表面積あたり800mgを超える塩化カルシウムの投与は、PCIを引き起こす優位なリスク因子だと結論付けられた。
Monique 氏らによって、膵酵素分泌の視点から術後膵炎発症について研究が進められた。[3] 人工心肺を用いる心臓手術を受けた199人の心臓手術を受けた患者を、術後にPCIを発症したかしていないかで2群に分け、血漿中の免疫反応トリプシン(以下IRTと略す)、アミラーゼ、膵性イソアミラーゼ、リパーゼ、炎症マーカーを術前術後で測定した。血漿IRT >70ng/mLおよび膵イソアミラーゼ > 35IU/Lの基準に従い、133人の患者(69%)がPCI群に分類され、60人(31%)の患者が非PCI患者群に分類された。6人の患者は術中または術後に死亡した。多変量解析を行うと、IRT >40ng/mL、アミラーゼ >42IU/L、 イソアミラーゼ >20IU/Lは術後のPCIと関連していた。アミラーゼは唾液腺からも放出され、膵臓リパーゼの活性は肝臓、腸管、およびリポタンパク質リパーゼの活性と区別できないため、これらは膵臓特異的ではないことから、筆者は特に膵臓のみから分泌されるトリプシン、イソアミラーゼの測定が有用であると主張している。また興味深いことに、Fernandez-del 氏らの研究とは対照的に、与えられたカルシウムの量とPCIの発生率との間には何の関係も見出されなかった。カルシウム投与のレジメンを参考にしたかは不明であったが、Fernandez-del 氏らの研究では1683 ± 879 mgのカルシウム投与が行われたのに対し、Monique 氏らの研究ではより少ない平均1400 mgのカルシウムが全患者に標準化されて投与されたことを考えると不思議なことではないと考えられる。
以上より、人工心肺を用いた心臓手術ごの膵炎発症機序が学習でき、また術前のリスク因子としては、術前腎不全、弁手術、トリプシンとイソアミラーゼの術前値高値がリスク因子となることが学習できた。
参照
[1]Mithofer K et al.
Calcium administration augments pancreatic injury and ectopic trypsinogen
activation after temporary systemic hypotension in rats.
Anesthesiology 83:1266-1273, 1995.
[2]Fernandez-Del Castillo C et al.
Risk factors for pancreatic cellular injury after cardiopulmonary bypass.
N Engl J Med 325:382-387, 1991.
[3]Monique et al.
Pancreatic cellular injury after cardiac surgery with cardiopulmonary bypass:
frequency, time course and risk factors.
Shock: May 2007 - Volume 27 - Issue 5 - p 474-481
寸評:なぜ問題は難しい、という話をしました。難問によく挑戦しましたね。
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