注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
不顕性骨折で感染を疑うべき因子はあるか
不顕性骨折とは腰痛を主訴とする患者の中で初診時X線像にて明らかに診断できない骨折を意味し、不全骨折や疲労骨折、骨挫傷を総称して使用される。主に骨粗鬆症を背景に大腿骨頚部に発症することが多いが、感染による骨の脆弱性に体重負荷や外的因子が加わることで生じる場合がある。そのため画像検査では不顕性骨折であると判断された化膿性椎体炎を予め発見できないか調べた。
しかし、不顕性骨折と化膿性脊椎炎とを並列して研究した論文が見つからなかったため、主訴である「腰痛」から化膿性脊椎炎を疑い得る因子はあるかについて調べた。
感染による腰痛は他の原因による腰痛に比べ頻度が低く、見逃しやすいとされている。化膿性脊椎炎の初期症状は腰痛86%、発熱が35%~60%と報告されており、症状のみで化膿性脊椎炎であると推測するのは難しい。1)
IDSAによる化膿性脊椎炎のガイドラインでは病歴、身体所見、血液検査を「総合的に」見て疑うべきとされており、その中でも化膿性脊椎炎を疑う根拠として
・新規または悪化する腰痛、頚部痛とCRP,ESRの上昇の併発
・新規または悪化する腰痛、頚部痛と発熱か菌血症か感染性心内膜炎の併発
・発熱と神経学的異常所見(背部痛はあってもなくてもよい)
・黄色ブドウ球菌菌血症フォロー中の新規局在性の背部痛
の4つを挙げている。2)
また、感染性脊椎炎の診断上の特徴を発見することを目的とした前向き調査をŞ. Eren GÖkらが行っている。この調査ではアンカラのAnkara Numune Education and Research Hospitalにて2002年から2012年にかけて脊椎炎の患者計214人を観察した。多変量解析を行い脊椎炎の病態ごとの予測因子を別々に検出したところ、この実験で感染性脊椎炎であると診断された患者で傾向が強かったのは脊椎の手術歴(OR=14.7, 95%CI 6.54–32.89; p<0.001)と術前血液検査での白血球増加(OR=5.4, 95%CI2.43–12.14; p<0.001)であった。3)
化膿性脊椎炎の画像診断についてはガイドラインでの検討の他にも複数報告が存在している。その中でも、X線での検査は、早期診断には向かないとされている。3~6週間経過した化膿性脊椎炎で椎体の侵食像を認めることがあるものの、感度は低い。単純X線に加えて、造影CTやMRIを行うと膿瘍の検索に有用である。2)特に脂肪抑制T2WI画像、またはSTIR画像が病変の描出に優れており、早期診断に有用であると報告されている。4)5)
以上より、腰痛を訴える患者を診察する際に発熱やCRP,ESR,白血球など炎症マーカーの上昇、神経学的異常所見、脊椎の手術歴を持つ患者にはX線に加えMRI等の画像診断を行うことを選択肢に入れると化膿性脊椎炎の診断に至りやすくなるであろう。しかし、いずれの因子も特異性に欠けており単体で決定的な診断根拠となるものではなく、あくまで多角的検査による総合的な判断は不可欠である。
腰痛の診察で見逃されがちな化膿性脊椎炎の予測因子を示すことはできたものの、今回のテーマである不顕性骨折で感染を疑う因子は結論を出すことはできなかった。
1) Zimmerli W. (2010) Clinical practice. Vertebral osteomyelitis. N Engl J Med.
2) Berbari EF et al. (2015) Infectious Diseases Society of America (IDSA) Clinical Practice Guidelines for the Diagnosis and Treatment of Native Vertebral Osteomyelitis in Adults
3)Ş. Eren GÖk et al. (2014) Vertebral osteomyelitis: clinical features and diagnosis
4) Leone A et al. (2012) Imaging of spondylodiscitis.
5) Nickerson EK, Sinha R. (2016) Vertebral osteomyelitis in adults: an update.
寸評;難しい議論で決着は付きませんでしたが、難しさそのものに気づくことも大事です。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。