注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
慢性骨髄炎に対する下肢切断は患者のQOLを向上させるか?
慢性骨髄炎とは細菌の持続感染、長期間の腐骨の存在、分泌物のなくならない瘻孔の存在、症状の3週間以上の持続によって特徴付けられる疾患である。内科的治療のみで治癒は望めず、完治のためには腐骨の除去と長期間の抗菌薬投与が必要となる。1) 下肢切断等により腐骨が完全に除去され、手術創部が感染の兆候なく治癒した場合には、抗菌薬治療を中止してもよいとされる。2)
ここで慢性骨髄炎患者におけるQOLを、抗菌薬なしで骨髄炎の再燃なく、歩行機能が保たれることであるとする。下肢切断は、義肢により歩行機能を保てて、かつ骨髄炎の再燃を防ぎ長期間の抗菌薬投与が不要となるのであれば、患者のQOLを高めるのではないかと考えた。そこで、最初から下肢切断したほうが良いのか、まずは骨温存治療をしたほうが良いのかを調べてみることにした。
32例の踵骨の慢性骨髄炎患者を調べた後ろ向き研究では、9例のデブリドマン、8例の穿孔・コラーゲン-ゲンタマイシンスポンジ骨補填、15例の踵骨部分切除後セメント補填、2例の踵骨全切除、4例の下腿切断が行われた。治癒率については、骨温存治療(デブリドマン・穿孔骨補填)を最初にした群では76.47%、踵骨切除群では88.24%で、骨温存治療を最初にした群よりも踵骨切除群のほうが感染コントロール良好であった。一方、術後の歩行機能が保たれた割合は、骨温存治療を最初にした群では100%、踵骨切除群では93.33%で、骨温存治療群のほうが踵骨切除群よりも高かった。骨温存治療または踵骨部分切除術のコントロール不良により下腿切断が行われた4例のうち2例(50%)は、切断後も感染のコントロールが不良であった。また4例のうち3例(75%)が歩行不能であったが、うち2例は治療以前から脊髄損傷による歩行不能状態で、1例は踵骨骨折と糖尿病を合併する慢性骨髄炎により下腿切断された患者で義肢の受け入れ不良により歩行不能となった。歩行可能となった1例は糖尿病の既往のない患者であった。3)
上記の研究で、下肢切断は他の治療と比較して感染コントロール良好であるとは言えず、歩行不能となった例もあったが、下肢切断された例が非常に少なかった。また、初回治療から下肢切断した群がなかったため、初回での治療方法での比較ができておらず、下肢切断を初回にした場合と他の治療が失敗してから後に下肢切断になった場合の比較もできていない。骨温存治療よりも骨部分切除術が感染コントロール良好であることを考えると下肢切断も初回治療に用いれば感染コントロール良好なのではないかと推測でき、初回治療に下肢切断を行った例を含む大規模な研究が望まれる。上記研究では踵骨の慢性骨髄炎についてしか述べられていないので、足趾や脛骨などの他の部分の骨髄炎については考えられていない。たとえば足趾の骨髄炎の場合、踵の骨髄炎の場合と比較して、歩行機能としてはあまり問題にならない可能性が高いと思われ、部位ごとの評価が必要となる。
参考文献
1)青木眞(2015)「レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版」医学書院
2)Up to Date Overview of osteomyelitis in adults
3)Babiak I et al.Comparison of Bone Preserving and Radical Surgical Treatment in 32 Cases of Calcaneal Osteomyelitis.J Bone Jt Infect. 2016 Mar 5;1:10-16
寸評;非常に臨床的な良問。ただ「そもそもQOLとはなにか」で躓きました。いいんです。学生のときに躓いた数だけ成長の可能性は高まります。高く飛ぶものは必ず低く屈伸する。
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