注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「単剤治療が多剤より優れているとしたら、それはなぜか」
感受性検査の結果選択される抗菌薬として一つで全ての検出菌をカバーする薬剤が良いのか、それとも組み合わせで最終的に全てカバーする方法が良いのか疑問に思い、単剤治療について多剤併用治療と比較して調べることにした。単剤治療と多剤併用治療の比較においては治療効果、薬剤の使用に伴う有害事象の頻度、耐性菌の出現率を調べる必要があると考えた。
Safdarらは1966-2003にかけての17の研究に対しグラム陰性菌血症に対する単剤及び多剤での治療結果についてのメタアナリシスを行った[1]。
結果、多剤併用治療(1293人中354人)と単剤治療(1784人中353人)の死亡率に関する要約オッズ比は0.96 (95%CI 0.70-1.32)であり、治療成績に有意差は見られなかった。
また、うち1つの研究では単剤と多剤療法における有害事象の比較が行われており、ピペラシリンとトブラマイシンとの併用療法では患者の20%に有害事象が起こり、セフタジジムのみで治療した患者よりも有害事象の発生頻度が2.9倍高いことが見いだされた[2]。
抗菌薬耐性菌に関して、細菌による抵抗獲得にそれぞれ独立した機序を持つ複数の薬剤による併用治療では、いずれか一つの抗菌薬だけが使用された場合に起きる可能性のある耐性菌の増殖が他剤により抑制されるため、抗菌薬の曝露が長く耐性を生じやすいHIVや結核の治療に対しては多剤併用療法が基本となっている[3]。Moutonらは同様の理由による治療中に生じる耐性菌の防止は臨床での評価が難しくさらなる研究が必要であるとしたうえで、いくつかの前臨床試験の結果から耐性菌の減少に多剤併用治療がより効果的である可能性があると述べている[4]。また、同じレビューの中で多剤併用治療の他の利点として感受性が不明な場合にレジメンのどれか一つが菌に対する高感受性を持つ可能性が高いこと、抗菌薬の組み合わせによる相加・相乗効果により効力の増加が期待できることが述べられている。
単剤治療の他の利点としては、狭いスペクトルでの治療が可能であること、服薬の手間や医療コストの削減につながることがあげられる。
以上より単剤治療は、起炎菌への感受性が確かめられており、耐性菌のリスクが低い短期間での治療が可能であるときに、不要な曝露や投薬による有害事象を避け、服用の手間やコストを減らすことができる点で優れていると考えられるが、起炎菌が不明で単剤では抗菌スペクトルが不足するおそれがある場合、HIVや結核の治療など多剤を使用しなければならない場合に注意する必要がある。
【参考文献】
[1] Does combination antimicrobial therapy reduce mortality in Gram-negative bacteraemia? A meta-analysis. Nasia Safdar et al. Lancet Infect Dis. 2004 Aug;4(8):519-527.
[2] Ceftazidime compared with piperacillin and tobramycin for the empiric treatment of fever in neutropenic patients with cancer: A multicenter randomized trial. De Pauw et al. Annals of Internal MedicineVolume 120, Issue 10, 15 May 1994, Pages 834-844.
[3] Tunkel AR, van de Beek D, Scheld WM:Acute meningitis, Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases, 8th ed. Edited by Bennett JE, Dolin R, Blaser MJ. Elsevier Saunders, Philadelphia, 2015, 229-231.
[4] Conserving antibiotics for the future: new ways to use old and new drugs from a pharmacokinetic and pharmacodynamic perspective. Mouton JW et al. Drug Resist Updat. 2011 Apr;14(2):107-17.
寸評;「なぜ」問題はレベルが高い、という話でした。よくまとめました。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。