注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
菌血症が何日続けば感染性心内膜炎の可能性が高まるか?
菌血症の患者に対し抗菌薬による適切な治療を行っているにも関わらず、血液培養にて病原菌が陽性であり続けるとき、具体的にどれくらいの期間、血液培養陽性が持続した際に有意差を持って感染性心内膜炎(IE)の可能性が高まるのかということは、検査やそれに基づく診断を行う上で重要であると考え、このテーマを設定した。
MRSA菌血症患者を対象としたFowler VG Jrらの前向き研究では、感受性のある抗菌薬治療を7日間以上行っているにも関わらず菌血症が持続した群をPersistent bacteremia(PB)、最初の血液培養陽性の後、感受性のある抗菌薬治療によりその後の血液培養がすべて陰性であった群をResolving bacteremia(RB)と定義し、PB患者21名と、RB患者107名のうちの無作為に選択した18名を比較した。その結果、PB患者は、RB患者よりもIEの診断に至る割合が有意に高かった(43%対0%, P= 0.002)。つまり、MRSA菌血症において、少なくとも7日間血液培養陽性が持続すればIEと診断される可能性が高くなるという結論になる。しかし、実臨床において7日間という経過は、場合によっては早急な介入を要するIEという疾患を管理する上では、判断の閾値としては悠長と考える。しかし、この研究では7日より短い期間菌血症が持続した群を設定して比較することは行っていない。
一方、S.aureus 菌血症患者2008名を対象としたVincent Le Moingらの前向き観察研究では、48時間以上菌血症が持続した患者344名中85名(25%)がIEと診断された一方、48時間以内に陰性化した患者1664名中136名(8%)がIEと診断された。この研究では、S.aureusの菌血症の持続時間について48時間を境界としてIEと診断される割合が有意に高く、オッズ比は3.69倍(95%信頼区間2.7-5.0, P<0.0001)であった。
本邦のガイドラインによると、IEにおける原因菌の上位3 菌種は、ブドウ球菌、VGS(レンサ球菌の一種)、腸球菌であり、グラム陰性菌や真菌はともにIEの原因菌の1%~数%程度と頻度は低い。今回は起因菌として頻度の高いレンサ球菌、腸球菌についての菌血症持続期間とIEの診断率の関係に関する論文は見つからなかった。ブドウ球菌は先進国におけるIEの起因菌として最も頻度が高く、日本ではVGSについで頻度が高く、また重症化のしやすさからブドウ球菌は臨床的に重要である。しかし、国や患者背景により頻度の高い起因菌は異なるため、ブドウ球菌以外の起因菌ごとに比較した菌血症の持続時間とIEへの進展のリスクについての前向き観察研究も必要であると考える。
以上より、菌血症が一般に何日続けばIEの可能性が高まるかということは明らかではないが、少なくともブドウ球菌による菌血症に対しては、適切な抗菌薬を使用しているにも関わらず2日間菌血症が持続した場合にはIEの可能性が高まったと判断し、TTEやTEEなどの適切な検査を行うべきであると考える。
【参考文献】
Persistent bacteremia due to methicillin-resistant Staphylococcus aureus infection is associated with agr dysfunction and low-level in vitro resistance to thrombin-induced platelet microbicidal protein.
J Infect Dis. 2004 Sep 15;190(6):1140-9. Epub 2004 Aug 12
Staphylococcus aureus Bloodstream Infection and Endocarditis - A Prospective Cohort Study
PLoS One. 2015; 10(5): e0127385.
感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017 年改訂版)
寸評;テーマは秀逸で、それゆえに答えをだすのは難しかったですね。答えをだすのが難しい問いを立てるのはレベルの高い思考をしている証拠です。
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