注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
尿路ステント留置術において予防的抗菌薬投与は有効か?
尿路ステント留置術は、尿路感染症のリスクファクターである。しかし、尿路ステント留置術における予防的抗菌薬投与に関してガイドラインでは検討がなされていない(1)。そこで尿路ステント留置術における予防的抗菌薬投与の有効性について考察することにした。
Riedlらはステント留置術を行った62人の患者において予防的抗菌薬投与群42人と非投与群20人の比較検討をした。ステントへの細菌のcolonizationは投与群で70%、非投与群で65%と有意差はなく、予防的抗菌薬投与はステントのcolonizationを防ぐことができないとした(2)。
また、Ferroniらは小児ではあるが、腎盂形成術に伴うステント留置した163人の患者において予防的抗菌薬投与群126人と非投与群37人の比較検討をした。尿路感染症は投与群で1.6%、非投与群で2.7%(P=0.53)と有意差はなく、予防的抗菌薬投与は尿路感染症に影響しないとした。(3)
一方で、Kehindeらは糖尿病(DM)、慢性腎不全(CRF)、糖尿病性腎症患者ではステント留置術におけるcolonizationの頻度が有意に高く(P<0.001)、これらリスクファクターのある患者には予防的抗菌薬の投与を推奨するとしている(4)。しかし、Al-Ghazoらの研究では、予防的抗菌薬を投与した120人の患者について糖尿病(DM)、慢性腎不全(CRF)、悪性腫瘍などの合併症を有する患者ではステントのcolonizationの頻度がリスクファクターのない患者と比較して、有意に高かった(P <0.003、P <0.009、P <0.01、)。リスクファクターのある患者においても予防的抗菌薬投与はステントのcolonizationの頻度を減少させない。
今回の考察では、尿路ステント留置術において予防的抗菌薬投与の有効性を証明することはできなかった。また、リスクファクターのある患者においても予防的抗菌薬投与が有効であることは示せなかった。したがって尿路ステント留置術における予防的抗菌薬投与は必要ないと考えられる。
(1)泌尿器科領域における感染制御ガイドライン作成委員会 (2009) 泌尿器科領域における感染制御ガイドライン. 日本泌尿器科学会
(2)Riedl CR, Plas E, Hübner WA, et al. (1999) Bacterial colonization of ureteral stents. Eur Urol 36 : 53-59.
(3) Ferroni MC, Lyon TD, Rycyna KJ, et al. (2016) The Role of Prophylactic Antibiotics After Minimally Invasive Pyeloplasty With Ureteral Stent Placement in Children.
(4)Kehinde EO, Rotimi VO, Al-Awadi KA, et al. (2002) Factors predisposing to urinary tract infection after J ureteral stent insertion. J Urol. 2002 Mar;167(3):1334-7.
(5)Al-Ghazo MA, Ghalayini IF, Matani YS, et al. (2010) The risk of bacteriuria and ureteric stent colonization in immune-compromised patients with double J stent insertion. Int Urol Nephrol 42 : 343-347.
寸評;よいですよ。リスクがそこに有る、というのと抗菌薬でリスクがヘッジできる、は別の概念、と学生時代に学んでおくのは良いことです。医者になってもこういう基本的なことを理解できてない人は多い。「したがって」までの議論の持っていきかたも上手でした。
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