注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「S.maltophiliaに対してミノサイクリンとST合剤ではどちらが有用か」
今回の担当症例の方がS.maltophiliaによる菌血症に対してST合剤ではなくミノサイクリンで治療されており、なぜだろうかと疑問に思い、このようなテーマにした。
Handらは後ろ向きコホート研究で、2006年1月から2012年12月までに任意の部位からS.maltophilia培養が少なくとも1つ陽性となるS.maltophilia感染症に対して48時間以上ST合剤またはミノサイクリンで単剤治療を施行した場合の治療の失敗(他の抗菌薬への変更、30日以内の同一検体培養で陽性、治療開始後30日以内に死亡で定義)を比較した。妊娠中、投獄中、抗菌薬の併用療法を受けた患者は除外された。
結果は、ST合剤が22人、ミクロサイクリンは23人に投与されていたが、治療失敗となったのはST合剤群で41%(9/22)、ミノサイクリン群30%(7/23)となり、有意差はなかった。しかし、この研究には問題がある。それは後ろ向き研究であるために交絡因子が不明なものがある可能性がある、治療が失敗するかしないかの非劣勢試験で2剤の有効性を評価していいのか、対象患者の数が少ないということである。
Weiらの研究では2013年3月から2013年11月までに分離された80個のS.maltophilia株に対してのST合剤、ミノサイクリンを含む9つの薬剤の感受性をみた。結果は、感受性がST合剤で93.8%、ミノサイクリンで95.0%となった。また、22個のST合剤耐性株に対してのミノサイクリンの感受性は70%以上となった。しかし、この研究にも問題点が存在し、すべての株が単一センターに集められたもので数も少なく、臨床現場で可能性がある有害反応を考慮しなかった点が挙げられる。
Handらの研究よりS.maltophiliaに対するST合剤とミノサイクリンの治療の失敗率に有意差はなく、Weiらの研究よりミノサイクリンがST合剤耐性株に感受性があるとわかった。どちらの薬剤を選択するかはそれぞれの薬剤の副作用によって悪化する可能性のある疾患を患者が有する場合、その薬剤は当然避けるべきである。また、Handらの研究で治療期間という観点からみると、ミノサイクリン群はST合剤群に比べ、臨床データが少ないため長い治療コースを受けた。したがって、ミノサイクリンは感受性が保たれ、ST合剤には腎毒性や高K血症という副作用があるが、S.maltophilia感染が疑われた場合、治療期間の短さからまずST合剤で開始するべきだと考える。効果が見られない場合はST合剤耐性株である可能性を考え、ミノサイクリンへの変更を考慮するべきだと考える。
S.maltophiliaに対するST合剤、ミノサイクリンの有効性に関する論文は数が少なく、さらなる多様なセンターで、多数の患者が対象となるような前向き研究が必要だと考える。
参考文献
1.Hand E,Davis H, Kim T,Duhon B. Monotherapy with minocycline or trimethoprim/sulfamethoxazole for treatment of Stenotrophomonas maltophilia infections. J Antimicrob Chemother 2016 Apr;71(4):1071-5.
2.Wei C,Ni W ,Cai X ,Zhao J,Cui J.Evaluation of Trimethoprim/Sulfamethoxazole (SXT), Minocycline, Tigecycline, Moxifloxacin, and Ceftazidime Alone and in Combinations for SXT-Susceptible and SXT-Resistant Stenotrophomonas maltophilia by In Vitro Time-Kill Experiments. journal.pone.0152132. eCollection 2016.
寸評:わかんないことがわかる、の典型的なレポートでした。よかったです(無知の知の知はよいことなのです)。さ、というわけで研究しましょう。
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