注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
カンジダ血症の患者に対して行う中心静脈カテーテルの抜去はどれくらい意義があるのか?
カンジダ血流感染は重篤な状態にある患者に悪影響を与え、死に至ることもある。この時CVCの管理が問題になるのだが、カンジダ菌血症が増加するにつれ最良のCVC管理について近年議論されるようになってきた。[1] ガイドラインによると抗菌薬の投与と中心静脈カテーテル(CVC)の抜去を行うべき[2]としているが、果たしてCVCの抜去は患者に意義があるのか疑問に思い、今回調べることにした。今回「意義がある=CVC留置群と比較してCVC抜去群で、有意なベネフィットがある」とする。
侵襲性カンジダ症(IC)の1915人の患者を対象とした定量的システマティックレビューにおいてCVC抜去群とCVC留置群の死亡率を比較した際、CVC抜去群は28%、CVC留置群は41%となり、CVC抜去群でより生存率が高いことが分かる(P<.0001)。この研究だけを見るとCVC抜去をした方がよいという結論になるが、ICを起こした患者全員にCVC抜去がよい結果をもたらすとは限らないようだ。例えばカンジダの菌種に焦点をあてた後ろ向きコホート研究によると、Candida albicansとCandida glabrataにおいてはCVC抜去が死亡率の改善につながったが、Candida tropicalisとCandida parapsilosisにおいてはCVC抜去群とCVC留置群で死亡率に有意差がなかった。また、APACHEⅡスコアと関連付けて行われた後ろ向きコホート研究からは、APACHEⅡスコア>34の患者においてはCVC抜去群とCVC留置群で死亡率に有意差がなかったという結果がでた。 [3]
これらのことからどれくらいと表すのは難しいが、Candida albicansとCandida glabrataにおいては意義があり、Candida tropicalisとCandida parapsilosisによるICや重症例では意義がないとわかる。ただ菌種の同定がすぐにできるわけでもないので、Candida tropicalisとCandida parapsilosisの場合はCVCの抜去が悪影響を与えるわけではないことを考慮すると、ICと診断できた時点でCVC抜去を考慮してもいいかもしれない。
ここで新たに疑問となるのが、CVCを抜去するとなったならばいつするのが適切なのかということである。ここでは「治療開始48時間以内のCVC抜去=早期抜去」とする。多施設で行われた842人のカンジダ血症の患者を対象とした二重盲検無作為化比較化試験では、単変量解析ではCVCの早期抜去は菌の根絶や再発までの期間には影響しなかったが、感染の臨床的徴候は改善した。しかし多変量解析においては感染の臨床的徴候すら改善しなかった。 [4]ただ、この研究は対象者を16歳より上と限定しているため、16歳以下の患者に適応されるのか、また好中球減少のあるカンジダ血症の患者が10%しかいないため好中球減少のある者にあてはまるのかなど疑問は残る。さらには早期のCVC抜去と留置を比較したRCTのメタアナリシスが未だ行われていないため議論の余地はある 。
[1] Susanne Janum.et.al/2016/Central venous catheter(CVC) removal for patients of all ages with candidaemia
[2]日本医真菌学会/2012/侵襲性カンジダ症の診断・治療ガイドライン
[3] David.R Andes,et.al /2012/Impact of Treatment Strategy on Outcomes in Patients with Candidemia and Other Forms of Invasive Candidiasis: A Patient-Level Quantitative Review of Randomized Trials
[4] Marcio Nucci et.at./2010/Early Removal of Central Venous Catheter in Patients with Candidemia Does Not Improve Outcome:Analysis of 842 Patients from 2 Randomized Clinical Trials
寸評:統計的有意差とはなにか、サブグループ分析の問題など、いろいろ学べてよかったですね。
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