注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
二次性腹膜炎の抗菌薬治療において、治療期間を延長すべき条件はどういったものか?
外科感染症学会(SIS)と米国伝染病学会(IDSA)が共同で発表したガイドラインを含め、現在使用されているガイドラインには、成人の複雑な腹腔内感染症の治療期間について、「抗菌薬治療は、適切な感染源コントロールの達成が難しい場合を除いて、4〜7日に制限すべきである。」と記載されている(1)。かつては7〜14日間患者を抗菌薬治療するのが一般的であったが、最近では耐性菌の観点からも適切な感染源コントロールを行い、できるだけ治療を短縮することが推奨されている(2)(3)。そこで、このガイドラインがどういった患者群を対象にした研究を根拠にし、どこまで適応できるのかについて考察する。
ガイドラインと同様に抗菌薬治療の期間短縮を結論とした論文をいくつか読み、それらがどんな患者を除外しているかを列挙する。
・米国ガイドライン(1):初期介入の遅延(> 24h)、病気の重症度が高い(APACHE IIスコア≧15)、高齢、臓器不全の合併、低アルブミン、低栄養状態、びまん性腹膜炎、適切な壊死組織切除術または排液管理を行うことができない、悪性腫瘍の存在
・Robert Gら(4):16歳未満、感染源コントロール不良、72h以内に死亡する可能性が高い、開腹手術予定、24h以内に処置した穿孔性胃十二指腸潰瘍、12h以内に処置した腸への外傷、非穿孔性・非潰瘍性の胆嚢炎または虫垂炎、細菌や真菌の増殖のない壊疽性虫垂炎または腹膜炎、細菌や真菌の増殖がない非穿孔性の壊疽性または虚血性の腸疾患、活性壊死性膵炎、一次性腹膜炎、腹膜透析患者、外科切開の一次閉鎖、妊娠、別の感染症の併存
・Antonio Basoliら(5):12時間以内の手術を必要とする外傷性の穿孔、24時間以内に手術を必要とする胃十二指腸潰瘍の穿孔、主要病因が感染性ではない他の腹腔内プロセスを伴う患者、アレルギー、過敏症、抗生物質に対する重度の反応の病歴を有する患者、授乳中または妊娠中の患者、重度の肝疾患または腎疾患
・Philippe Montraversら(6):真菌感染、8日以内の再手術、8日以内のICU離脱、8日以内の死
以上の様に、腹膜炎のための抗菌薬治療の最適期間は広範に議論され短縮されているが、研究の対象からは重症患者などが除外されている。つまり軽度から中等度の腹腔内感染症に対する無作為試験では、治療期間の短縮が研究されているが、術後腹腔内感染症や重症の症例数は限られており、治療期間として4~7日が適切であるという根拠に乏しい。また、感染源コントロール不良となるリスクとして好中球減少患者、免疫抑制患者、再発性腹腔内感染患者や真菌感染患者もまた多く除外されており適切な結論は得られない。
結論として、今後更なる症例の蓄積によって変わってくる可能性があるが、現時点では重症例や真菌感染などの場合には治療期間の延長を考慮すべきであると考える。また、リスクが高い場合(白血球減少、免疫抑制、感染再発、真菌感染、高齢、若年、妊娠など)には、外科医などと密な情報共有を行い、不安要素があれば治療期間を延長すべきであろう。このガイドラインが適応とならない重症患者では、不十分な治療期間による感染の再発が致命的となる可能性があり、同様にすべてのガイドラインを表層だけを読み盲信するのは危険であろう。
- SURGICAL INFECTIONS Volume 11, Number 1, 2010 ª Mary Ann Liebert, Inc. DOI: 10.1089=sur.2009.9930
- Solomkin JS, Mazuski JE, Bradley JS, et al. Diagnosis and management of complicated intra-abdominal infection in adults and children: guidelines by the Surgical Infection Society and the Infectious Diseases Society of America. Surg Infect (Larchmt) 2010;11:79-109
- Solomkin JS, Mazuski JE, Bradley JS, et al. Diagnosis and management of complicated intra-abdominal infection in adults and children: guidelines by the Surgical Infection Society and the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis 2010;50:133-164
- Robert G. Sawyer, M.D.,Jeffrey A. Claridge, M.D.,Avery B. Nathens,et al. Trial of Short-Course Antimicrobial Therapy for Intraabdominal Infection. N Engl J Med 2015; 372:1996-2005
- Antonio Basoli,Piero Chirletti,Ercole Cirino,et al. A Prospective, Double-Blind, Multicenter, Randomized Trial Comparing Ertapenem 3 Vs ≥5 Days in Community-Acquired Intraabdominal Infection. J Gastrointest Surg (2008) 12:592–600
- Philippe Montravers,Florence Tubach,Thomas Lescot,et al. Short-course antibiotic therapy for critically ill patients treated for postoperative intra-abdominal infection: the DURAPOP randomised clinical trial. March 2018, Volume 44, Issue 3, pp 300–310
寸評:面白いレポートです。インクルージョン、エクスクルージョン・クライテリアと「べき」論は必ずしもシンクロしてないってことはここで学べましたね。
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