注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
人工血管置換術の部位別での感染合併の頻度に差はあるのか
全体の症例数で見た場合感染を合併するのはどの程度の割合なのか、また人工血管の部位別でも差があるだろうと考えてテーマとした。
アメリカでの市場調査、医療機器メーカーや医療機関から提供されたデータを元にした毎年の統計によると人工血管全体で450000件中16000件(4%)に感染が生じた。報告の中からシャント形成の動静脈グラフト、大動脈グラフト、大腿-膝窩動脈グラフトの3つの群に分けた場合シャント形成に使われる人工血管では5%程度の感染が生じた。大腿動脈では4%感染が生じた。大動脈については2%程度感染が生じた1。
日本の報告では84施設1301件の腹部大動脈で20例1.5%、49施設1080件のシャント形成で2件0.2%、82施設2302件の胸部大動脈置換で89件3.9%、56施設608件の末梢血管バイパス手術で20件3.3%で感染が生じた2。
アメリカと比べてシャント形成術のみが日本が明らかに低いが厚生労働省のデータの判定基準(3)によると埋入物をおいた場合は術後1年以内とされていたこととアメリカの報告では感染の期間については言及されていないため術後1年以降の感染も含まれている可能性、また日本のデータは2016年のデータであり、アメリカのデータは引用先の文献では90年代のデータも含まれていたことが影響している可能性がある。
日本とアメリカのデータ自体は見つけることができたが、人工血管感染の部位別で統計学的に分析した文献は見つけることができなかったため真に部位によって頻度に差があるのか結論を出すことができなかった。
参考文献
(1)Rabih O. Darouiche, M.D. April 1, 2004 N Engl J Med 2004; 350:1422-1429
DOI: 10.1056/NEJMra035415 Treatment of Infections Associated with Surgical Implants
(2)厚生労働省院内感染対策サーベイランス2016年 年報 https://janis.mhlw.go.jp/report/ssi.html
(3)厚生労働省院内感染対策サーベイランス手術部位感染判定基準 https://janis.mhlw.go.jp/section/standard/standard_ssi_ver1.2_20150707.pdf
寸評:良いテーマですし、よく頑張ったと思います。眼の前のデータを自分で検証する練習にもなりましたね。R、使ってみましょう。
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