ペニシリンアレルギーの患者にペニシリン系の薬剤を使用してもよいのか?
今回の患者の方は、ペニシリンアレルギーの疑いがあったにも関わらず、
Tazobactam Piperacillinを投与してもアレルギー反応が出なかった。このことから、ペニシリンアレルギーがあるとされている患者にペニシリンを使用してもよいのかについて2つの論文を引用して考察する。
・ペニシリンアレルギーがあると自己申告した150人の被験者(平均年齢42歳、女性54%、黒人47%)に対しペニシリンの皮内テストを行った。この研究ではⅠ型アレルギーについてのみ論じている。皮内テストでアレルギーがあると自己申告したにも関わらずⅠ型ペニシリンアレルギーが陰性だったのは137/150で91.3%(95%ZCI 86.7-96.0)であった。I型アレルギーが陽性である割合は女性より男性(11.6%対9.9%、OR比 1.993、95%CI 0.621-6.404)、白色人種より黒色人種(14.8%対5.5%、OR比 2.693、95%CI 0.790-1.174)でより高かったが、有意差はない。1)
・2011年から2016年の間で、ペニシリンアレルギーがあると自己申告した被験者100人(平均42歳、女性54%)に対し、ペニシリンの皮内テストを行い、アレルギー反応が見られなかった患者について9日間の漸増経口投与試験が行われた。結果は、被験者のうち81%(95%CI 71.9-88.2)はペニシリンに対するアレルギーを示さなかった。アレルギー反応が確認されたのは19人で、その内の16人は、皮内テストによって発症した。3人は経口試験によって検出された。女性は、OR比が4.0(95%CI 1.23-13.2)で、真にペニシリンアレルギーである可能性が有意差を持って男性より高かった。重篤な有害事象はなかった。2)
以上より、ペニシリンアレルギーを持っていると自己申告する患者の大半はペニシリンアレルギーを持っておらず、また真にアレルギーである患者もほとんどが皮内テストで発見することができるため、疑いがあるからといって、試験をせずにペニシリンを使用できないとするのは早計である。ただし、皮内テストで分かるのは、即時型のⅠ型アレルギーだけであるので、Ⅱ~Ⅳ型アレルギーを持つ場合は発見できない。ペニシリン投与時の水泡性皮疹、溶血性貧血、免疫複合体反応、Stevens-Johnson症候群、中毒性表皮壊死症などの既往がある場合は禁忌である3)。
参考文献
1) Department of Emergency Medicine, University of Cincinnati, Cincinnati. The use of penicillin skin testing to assess the prevalence of penicillin allergy in an emergency department setting. Ann Emerg Med. 2009 Jul.
2) Marwood , Aguirrebarrena , Kerr , Welch , Rimmer . De-labelling self-reported penicillin allergy within the emergency department through the use of skin tests and oral drug provocation testing. Emerg Med Australas. 2017 Oct;29
3)レジデントのための感染症診断マニュアル 第3版 青木 眞
寸評:良いテーマですし、よく議論されていると思います。
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