注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
血腫の吸収によりなぜ発熱するのか?
序論
血腫が体内に存在する場合,全身性に発熱することが知られている.これは吸収熱と呼ばれ,血腫吸収に際して起こる.臨床現場では,この吸収熱は時に問題となる.例えば,術後の手術部位感染による発熱と吸収熱の鑑別は困難である (1).吸収熱は,血腫が吸収される際,何らかのメカニズムを介して全身性に発熱すると考えられる.そこで,本レポートではその発熱の機序について考察する.
本論
腎生検後の血腫の形成とそれによる吸収熱に関わる研究では (1),手術の侵襲や感染症による発熱パタンと吸収熱の発熱パタンの違いを明らかにした.具体的には,吸収熱は,術後4-6日で発生する確率が高く,39℃以下,発熱初日にピーク,午前より午後に高温,常に夕方に最高値,毎日徐々に低下,持続期間は1週間未満,日内変動は1℃以内,ということが明らかになった.脳内の血腫吸収のメカニズムを調べた研究では (2, 3),CD163やCD36といったマクロファージ(MØ)に関連分子が,血腫吸収に重要な役割を果たすことが報告されている.しかし,上記の研究は吸収熱の発熱のパタンや,血腫の吸収のメカニズムに関する研究であり,「発熱のメカニズム」についてはいまだ明らかになっていない.
前述の研究で明らかになった吸収熱の発熱パタンや,血腫の吸収とMØの関係性から,「吸収熱は,その発熱パタンと同期するように血腫処理を担うMØが活性化し,体温中枢に作用する」ということが推察できる.一般的に,MØを介した発熱のメカニズムは,グラム陰性菌の細胞膜成分のLPSが外因性発熱物質として作用する経路が有名である.外因性発熱物質によって刺激されたMØは,血液脳関門に作用する事でCOX-2を誘導し,脳内にプロスタグランジン(PG)を産生する.このPGは,体温調節中枢の視床下部に作用して発熱を惹起する (4).ここで,前述の研究で着目されていたCD163は,溶血性の炎症においてMØからの炎症関連物質の分泌を引き起こすことも知られている (5).したがって,吸収熱は,「血腫吸収を担うMØ のCD163を介した中枢性の発熱」であるという仮説が考えれらる(図1).また,CD163は糖質コルチコイドにより発現が促進されることや(5),糖質コルチコイドの分泌は日内変動することがよく知られていることから,吸収熱の発熱パタンは,糖質コルチコイドの分泌の日内変動と関連している可能性も考えられる.
結論
これまでの研究では,吸収熱発生のメカニズムは明らかになっていなかった.本レポートでは,MØによる血腫処理の過程で吸収熱が発生するという仮説を提案した.今後この仮説の検証が期待される.吸収熱の機序解明は,吸収熱と感染症による発熱の鑑別に寄与し,不要な抗菌薬投与を減少させるなどの効果が期待できる.
引用文献
- Hu TY, Liu QQ, Xu Q, Liu H, Feng Y, Qiu WH, et al. Absorption fever characteristics due to percutaneous renal biopsy-related hematoma. Medicine. 2016;95(37).
- Fang H, Chen J, Lin S, Wang P, Wang Y, Xiong X, et al. CD36-mediated hematoma absorption following intracerebral hemorrhage: negative regulation by TLR4 signaling. J Immunol. 2014;192(12):5984-92.
- Xie WJ, Yu HQ, Zhang Y, Liu Q, Meng HM. CD163 promotes hematoma absorption and improves neurological functions in patients with intracerebral hemorrhage. Neural Regen Res. 2016;11(7):1122-7.
- Derijk RH, Strijbos PJ, van Rooijen N, Rothwell NJ, Berkenbosch F. Fever and thermogenesis in response to bacterial endotoxin involve macrophage-dependent mechanisms in rats. Am J Physiol. 1993;265(5 Pt 2):R1179-83.
- Polfliet MMJ, Fabriek BO, Daniels WP, Dijkstra CD, van den Berg TK. The rat macrophage scavenger receptor CD163: Expression, regulation and role in inflammatory mediator production. Immunobiology. 2006;211(6-8):419-25.
図
図 1 本レポートでの仮説
寸評:良いレポートです。質問の設定、事実の確認、仮説の設定の検証、申し分ありません。
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