注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
テーマ:「結核性心膜炎のrule outに心囊液中のADA値は有用か」
心囊液の貯留する原因として心膜炎がある。心膜炎の原因として結核性が多く(1)、臨床的疑いに応じて心囊液中のADAを測定することがある。今回、私はこのADA値を用いることで結核性心膜炎を除外することができるのか興味をもったため調べることにした。
Tuon らは、2000-2005年にかけて心囊液中のADA活性を測定した患者の心囊液、微生物学的分析、病理学的所見を対象にした後ろ向き研究を行った。
ADA活性を測定した患者88人を結核性心膜炎群(以下TP群とする) 9例とコントロール群 39名 (悪性新生物: 12例、敗血症性心膜炎: 11例、原因不明: 16例)に分けて、ADA値のカットオフ値を40U/Lとしたときの感度・特異度の分析を行った。(40例は除外された。)
結果として、TP群とコントロール群との比較での感度・特異度はそれぞれ89%、72%となった。
また、コントロール群の各種原因ごとにTP群と比較すると、感度・特異度はそれぞれ、悪性新生物の場合、89%、75%、敗血症性心膜炎の場合、89%、36%、原因不明の場合、89%、94%となった。(2)
Tuonらは結核性、心膜、ADAを含む1980-2005/8までの論文のシステムレビューも行っている。1053件の研究のうち条件を満たさない1048件を除外して、選出された5件(症例数: 462例、結核数: 222例、結核真陽性: 195例)のシステムレビューで、ADA値のカットオフ値40 U/Lでの感度・特異度の分析を行った。
結果として、感度は88%(CI: 82-91)、特異度は 83%(CI: 78-88)となった。(3)
以上のことを踏まえると 、ADAのカットオフ値を40U/Lとすると感度が前者では89%、後者では88%(CI: 82-91)であり、結核性心膜炎を除外診断するツールの1つとして有用であると考えられる。ただし、結核性心膜炎の症例数が少ないこと、選択した論文に同じ著者がいるのでバイアスがかかっている、後者ではコントロール群の原因別に比較していないため、予期せぬADA高値を評価する方法がない、という限界がある。
また、このテーマについてPubmed、書籍で調べた、ADAのカットオフ値が40U/L以外での感度・特異度が分からなかった。
以上より、心囊液中のADA値が40U/L以下の時、結核性心膜炎を完全にはrule out できないが、鑑別順位を下げるのには有用なツールの1つと考えられる。
参考文献
(1) 福井次矢, 黒川清; ハリソン内科学 第5版 メディカル・サイエンス・インターナショナル
(2) Felipe Francisco Tuon, Vivian Iida da Silva, et al. The usefulness of adenosine deaminase in the diagnosis of tuberculous pericarditis; Revista do Instituto de Medicina Tropical de São Paulo, 49(3): 165-170, 2007.
(3) Felipe Francisco Tuon, Marcelo Nóbrega Litvoc, et al. Adenosine deaminase and tuberculous pericarditis—A systematic review with meta-analysis; Acta Tropica 99(2006)67-74
寸評;テーマは普通でしたが、考察は秀逸でした。
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