注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「人工膝関節の再置換術は、初回置換術と比較して感染の発生の頻度やリスクはどうなるか?」
私の担当した患者は(以下、個人情報で割愛)。初回置換術の深部SSIの発生率は研究によって異なるが2.2%~2.9%であり[1]、リスク因子には関節リウマチ、高齢者、糖尿病、男性、術前入院期間の延長、がある[2]ことが分かった。
再置換術の感染率について参考にした文献[3]は、1998年3月から2005年12月までの間に人工膝関節の再置換術を施工された451人の患者(476の膝)に対して最低25ヶ月間(平均65ヶ月)調査した後ろ向き研究である。調査対象となった476の膝のうち91例が感染による再置換であり、385例は感染以外の原因(癒着、摩耗、骨折など)による再置換であった。
結果、再置換術全体における深部SSIの発症率は9.2%(44例/476例)で、感染による再置換群では20.7%(23例/91例)、非感染による再置換群では5.4%(21例/385例)であり、感染による再置換群の発症率の方が約4倍高かった。感染のリスク因子について、上記の初回置換術でのリスク因子を含めた各項目を評価すると、「再置換の原因が感染によるものであること」、「併存疾患から10年生存率を予測する、チャールソン併存疾患指数の高さ」と「初回置換の原因が変形性関節症以外の疾患であること」がリスクだったと報告されている。
以上より、人工膝関節の再置換術は、初回置換術と比較して深部SSIの発生の頻度は、9.2%対2.2%~2.9%と高く、リスク因子にも違いがあることが分かった。
考察すべき項目として、感染以外の原因による再置換の患者群においての発生率である5.4%(21例/385例)が初回置換術の2.2%~2.9%を上回っている点があると考えた。参考文献ではこれを感染以外の原因による再置換の患者群に感染例が見落とされていると推測されるとしているが、今回の研究では明らかになっていないリスク因子に寄与しているとも考えられる。総じて、人工膝関節の再置換術における感染についての研究は少ない。再置換術における感染の患者数の少なさを考慮すると簡単ではないと予想されるが、今回の研究で解明できなかった別のリスクについてのさらなる研究、明らかになった「初回置換の原因が変形性関節症以外の疾患であること」の疾患についての具体的な分類や、「再置換の原因が感染によるものであること」について原因となった感染を引き起こした菌の種類ごとのリスク分類、初回術後の感染菌と再置換後の感染菌が同一であることが多いのか異なるものであることが多いのかなどについてのさらなる研究が待たれると考えた。
[1]骨・関節術後感染予防ガイドライン 骨・関節術後感染予防ガイドライン策定委員会編
[2]人工関節置換術後の感染の疫学 正岡利紀ほか
[3] Revision total knee arthroplasty infection: incidence and predictors.
Mortazavi SM, Schwartzenberger J, Austin MS, Purtill JJ, Parvizi J. Revision total knee arthroplasty infection: incidence and predictors. Clin Orthop Relat Res. 2010;468:2052.
寸評;パット見、だめなレポートかと思いましたが、丁寧に読むととても良くできているレポート。素晴らしい考察の展開でした。
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