注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「人工血管感染が起こった場合に再置換を行うとどの程度予後が良くなるか?」
人工血管感染に対する人工血管再置換術の効果を検討したランダム化比較試験は探した範囲で見つけることができなかった。そのため人工血管置換術後に感染がおこった場合に置換する血管の部位の違いによって予後がどのように変わるかを目的とした研究論文を読んだ(1)。スイスの大学病院で2001年~2012年までの12年間、18歳以上で動脈のPVGI (proshetic vascular graft infection、人工血管感染)と診断された患者61人を対象とした。PVGIの診断は1)血管周囲の検体から病原微生物が検出されている。2)血管および周辺の組織に病理学的、放射線学的な感染の証拠があった。3)持続的な菌血症の状態にあった。のいずれか1つを満たすこととした。また61人のうち24人が胸部の動脈、27人が腹部の動脈、10人が末梢の動脈であった。それぞれの血管への感染に対してデブリドマンと抗菌薬投与、血管の再置換と抗菌薬投与、抗菌薬治療のみの3つの治療に分けた。そのうえで感染していると診断されてから1年後に治癒している割合を出した。治癒の定義は1)臨床的な感染のサインがないこと。2)血管の機能に異常がないこと。3)画像的な感染の証拠がないこと。4)炎症のマーカーが上がっていないこと。のすべてを満たしていることと定義した。61例全体で検討した場合、血管再置換は非置換に比べて1年後治癒率に有意差がないことを示した (HR0.87、95%信頼区間0.23-3.26、P=0.84)。しかし血管再置換だけで部位別に比較すると、胸部、末梢動脈ではそれぞれ6人中6人、2人中2人が治癒するのに対して、腹部では6人中1人しか治癒が認められなかった。すべての治療を合わせた1年治癒率は胸部で87.5%、腹部で37%、末梢で70%であったのに対し血管再置換での1年治癒率は100%、16.7%、100%であり腹部では大きく血管再置換での治癒率が低かった。この数字は統計学的に検討された数字ではない。これら部位別の患者群には背景に差があり胸部手術を受けた患者群では年齢が有意に低かった。また同定された菌が腹部では他の部位と異なっており、複数の菌が検出される割合が高かった。このような要因が腹部での全体的な治癒率を下げることになったと考えた。このような結果から対象となった患者は非常に少なく議論するのは難しいが血管の部位によって血管再置換の効果は変わってくるのではないかと考えた。全例で検討した場合に有意な差が出なかったとしても、血管再置換が部位によっては予後を改善させる可能性があり血管の部位別に分けて考えるべきだと考えた。
- 参考文献(1)“Surgical and antimicrobial treatment of prosthetic vascular graft infections at different surgical sites: a retrospective study of treatment outcomes.”,Stefen Erb, Jan A. Sidler ,November 13, 2014
寸評;本題からずれてしまったので、問題なのだけど稀な事象については不完全なデータを検証してアブダクションするしかないので、そういう意味ではよく頑張りました。腹部とかだと微妙になりますね。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。