注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
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ペースメーカー感染時の全抜去は本当に必要なのか?
ペースメーカー感染が疑われる患者はリードを含めペースメーカー全抜去するのが一般的であるが1.2、条件により抜去せずとも抗菌薬など他の方法のみで治療できる例はないのか気になったので検討を行った。
デバイス感染を疑う患者への完全抜去による感染再発率の低さとリスクの低さは他の多くの研究から確認されている。ペースメーカー及び除細動器感染が認められる192例について抜去手術を行った研究では、機器を全抜去できた場合97.4%の患者で感染が根絶されたのに対し、部分的除去やリードを転位したのみの患者では71.4%が感染を再発し、この再発は主に体内に残された物質を原因とするものであった(P<.001)。4.5ペースメーカーおよび除細動器感染があり全抜去に成功した117人の患者のうち手術死亡率は0でありフォローアップでも再発率は3%であったというデータもある。3
一方ペースメーカー患者において、本当にデバイス感染とみなし抜去を行ってよいのかという条件はまだ明確でない部分も多い。黄色ブドウ球菌が認められるがデバイス局所での感染が認められない患者やグラム陰性菌血症の患者ではデバイス感染を起こすリスクは少なく除去は推奨されないとされている。2しかしその中でも①適切な抗菌薬治療を受けているが菌血症が再発している場合、②菌血症の原因が他に特定されていない場合、③菌血症が24時間以上続く場合、④ICDによる感染の場合、⑤人工心臓弁がある場合、⑥デバイス設置から3ヶ月以内に菌血症となった場合はデバイス感染の可能性が高まるためまだ多くの症例を研究する必要がありそうだ。
また、ペースメーカー抜去手術には合併症のリスクがある。実際にリスクについて評価した研究によると、抜去を行った4023例のうち、抜去に関連した合併症(タンポナーデ、血胸、肺塞栓、リードの移動、および死亡)の発症率は約2%であり、その死亡率は0.4%であった。様々なリスク因子のうち最も重要なのは埋め込まれていた期間であり、通常1年未満のリードは困難なく除去できるが、埋め込み期間3年間ごとに抜去失敗のリスクが倍増し、埋め込み期間が長いほど合併症のリスクが増加するとされている。しかし重度に感染したリードは感染のないリードより少ない抵抗で抜去出来ることもある。他のリスク因子としては術者の経験不足も挙げられる。3だがそれを考慮しても抜去手術によるリスクはかなり低いと言えるだろう。
以上より、ペースメーカーを含む心臓植え込み型機器の感染においてはほとんどの場合で全抜去の安全性が高く、感染再発や合併症発生率も低いと言える。グラム陰性菌による菌血症などデバイス感染の可能性がかなり低い場合にのみ他の治療法を選択する余地があるが、血液培養が例え陰性でもデバイス感染を疑った時点で速かに全抜去を選択することが患者の感染を根絶するには最適の道であるという結論に至った。
<参考文献>
1)Larry M. Baddour, M.D., Yong-Mei Cha, M.D., and Walter R. Wilson, M.D. (2012) Infections of Cardiovascular Implantable Electronic Devices N Engl J Med 2012; 367:842-849
2) Update on Cardiovascular Implantable Electronic Device Infections and Their Management (2010) Larry M. Baddour, Andrew E. Epstein et al. Circulation.2010;121:458-477
3) Michael E. Field, MD, Samuel O. Jones, MD, Laurence M. Epstein, MD(2007) How to select patients for lead extraction Heart Rhythm Volume 4, Issue 7, Pages 978–985
4) Pichlmaier M, Knigina L et al. (2011) Complete removal as a routine treatment for any cardiovascular implantable electronic device-associated infection. J Thorac Cardiovasc Surg. 2011 Dec;142(6):1482-90
5) Chua JD, Wilkoff BL et al. (2000) Diagnosis and management of infections involving implantable electrophysiologic cardiac devices. Ann Intern Med. 2000 Oct 17;133(8):604-8.
寸評:よくできてます。構成もディスカッションもよかったです。
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