注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「膿胸の予後規定因子にはどのようなものがあるか」
膿胸とは、細菌感染により膿性胸水が貯留した状態であり、グラム染色陽性細菌もしくは膿の存在を確認する。私が担当した患者は、十二指腸癌の肺転移に対する術後に膿胸をきたしている。その結果発熱の遷延等がみられており、今後の最大の課題は膿胸の治療であると考え、その予後を規定する因子としてどのようなものがあるか興味を持った。
今回参考にした文献ではまず、2002年から2004年にかけて英国の54の施設で454人の胸膜感染症患者に対し、3ヶ月後の死亡率と入院期間の観点から予後不良であった臨床上のリスク因子を前向きに検討した(以下研究1とする)。このうち有効なデータを得られたのは411人であり、膿性胸水を認めたのは339人(82.5%)であり、グラム染色陽性もしくは培養陽性だったのは105人(29.4%)であった。70歳以上、院内感染、尿素窒素が8mM以上であることが3ヶ月後の死亡率の上昇に強く関連し、膿性胸水、関節疾患の合併、拡張期血圧が70mmHg以上、アルブミンが27g/L以上であることが死亡率の減少に関連していた。治療初期のドレーン挿入と血清アルブミンが27g/L以上であることは入院期間の減少に関係しており、尿素窒素が8mM以上であること、院内感染、心疾患の合併は入院期間の延長につながっていた。以上から、腎機能(尿素窒素)、年齢、非膿性胸水、院内感染、栄養(アルブミン)が予後予測因子として抽出され、RAPIDスコアと称された。
次にこれらの因子の有無や程度によりそれぞれをスコア化し、低リスク群(スコア0~2)、中リスク群(スコア3~4)、高リスク群(5~7)に分類した。研究1に当てはめると、3ヶ月後の死亡率は低リスク群が1%であったのに比べ、中リスク群では12%(OR=24.4、95%信頼区間3.1-186.7)、高リスク群では51%(OR=192、95%信頼区間25.0-1480.4)であった。在院日数の中央値は低リスク群では10日(IQR=7-16)、中リスク群では15日(IQR=10-30)、高リスク群では18日(IQR=9-26)となった。そして、2005年から2008年にかけて英国の11の施設において210人の胸膜感染症患者をRAPIDスコアで評価した(以下研究2とする)。このうち102人(48.6%)で膿性胸水を認め、21人(10.2%)がグラム染色陽性もしくは培養陽性であった。3ヶ月後の死亡率は低リスク群では3%であり、中リスク群では9%(OR=3.2、95%信頼区間0.8-13.2)と有意な差は認められなかったが、高リスク群では31%(OR=14.1、95%信頼区間3.5-56.8)と死亡率の増加との相関がみられた。在院日数の中央値については、低リスク群では7日(IQR=6-13)、中リスク群では10日(IQR=8-18)、高リスク群では15日(IQR=9-28)となった。ROC曲線を作成すると、3ヶ月後の死亡率では研究1でAUC=0.88、研究2でAUC=0.80であり、RAPIDスコアが予測因子として有用であると考えられる。
以上から、RAPIDスコア、すなわち尿素窒素の上昇、高齢、非膿性胸水、院内感染、アルブミン値の低下は胸膜感染症の予後規定因子であり、患者のリスクの程度を把握した上で治療を行えるということから利用価値のあるものだと考える。今回の経験した症例でのRAPIDスコアは、BUN8.8mg/dL(=3.1416mM)→スコア0、67歳→スコア1、膿性胸水→スコア0、院内感染なし→スコア0、アルブミン2.0g/dL→スコア1で合計スコア2であり、これは低リスク群に該当する。ただし、研究における膿胸の症例で術後に発症したものがどれほどあったかは不明であり、より厳密な予後予測のためには、対象患者の背景をより明確にした研究が必要なのかもしれない。
参考文献
・レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版 医学書院
・UpToDate Parapneumonic effusion and empyema in adults
・A clinical score (RAPID) to identify those at risk for poor outcome at presentation in patients with pleural infectionA clinical score (RAPID) to identify those at risk for poor outcome at presentation in patients with pleural infection. Chest. 2014 Apr;145(4):848-855. doi: 10.1378/chest.13-1558.
寸評:予後予測スタディーの基本的なものですね。質疑応答にもよく答えていました。
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