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注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート 【脳膿瘍の予後規定因子について】
患者は腺様嚢胞癌の再発腫瘍切除術後の脳膿瘍で、意識状態は改善傾向ではあるがⅠ-2または3と意識障害が見られる。腺様嚢胞癌自体は手術と放射線治療で高い局所制御率と生存率が得られるということで、腫瘍切除後の現在、脳膿瘍が今後の患者のQOLを左右するのではと考え、脳膿瘍の予後規定因子について考察した。
今回主として参考にした論文は、ブカレストのBagdasar-Arseni救急病院で2011年1月から12月の一年間で脳膿瘍の治療を行った患者、平均年齢43.7±18.5歳(6〜80歳の範囲)の女性21人と男性31人を分析したものであった。この52人について、Glasgow Outcome Scale(GOS)を用いて臨床転帰を評価した。回復または独居可能な中程度の障害を予後良好、独居不能な高度の障害、植物状態、死亡を予後不良と定めた。44人(84.61%)の患者が予後良好で、そのうち20人(38.46%)が後遺症もなく回復し、24人(46.15%)は日常生活動作可能な程度の神経障害、または内服治療でコントロール可能なけいれん発作という中程度の障害であった。8人(15.39%)は予後不良でその内4人(7.70%)は日常生活に支障がある程の神経障害または薬でコントロール不能なけいれん発作という重度の障害があり、残り4人の内2人は神経的要因、1人は肺機能不全、1人は心不全によって死亡した。よって今回の研究対象の死亡率は7.7%である。一方、疫学としての脳膿瘍による死亡率は2000年以前の文献では10%、2000年以降の文献では17~32%とされている。この違いは耳・鼻腔からの感染による脳膿瘍の発生率が大幅に減少した一方で免疫不全による膿瘍の発生率が著しく増加したという疫学的な変化によるものと考えられる。
臨床転帰に関わる因子についての単変量解析では、予後不良であった患者には入院時GCS<8、けいれん発作、基礎疾患(チアノーゼ性の先天性心臓病または肝硬変)があった。死亡率についてはGCS<8、免疫不全(HIV感染、血液疾患、その他要因)、基礎疾患、全身感染が有意な寄与因子であった。実際、今回の研究で死亡した患者は全員免疫不全もしくは基礎疾患があった。
これらの中でも、この論文では予後・死亡率と最も関連する因子は入院時のGCSとしており、神経症状発症から入院までの期間が短く神経症状の進展が急速で、神経障害の程度が高い患者では死亡率が高かった。GCSが予後不良に最も関連するという結果は韓国で行われた51人の患者の多変量ロジスティック解析でも示されており、これでは入院時GCS<13では有意に予後が悪かった(p=0.003)。
その他の規定因子として多発膿瘍があるとの報告もある。多発膿瘍は今回の研究では52人中11人(21.15%)であった。過去の研究では多発膿瘍の患者は単発の患者より死亡率が高かったと報告されているが、今回の研究では死亡率に有意差はなかった。過去の報告の結果は、多発した原因として早期治療開始と適切な抗生剤投与がなされなかったことがあり、そのことが死亡率を高めたからだと考えられる。
以上より、死亡率関連因子は最も大きいものとして入院時GCS、その他に免疫不全、基礎心肝疾患、全身感染、予後関連因子は同じくGCS、その他けいれん発作、基礎心肝疾患であると言える。今回の患者ではGCSは13~14で、免疫不全、基礎疾患、全身感染、けいれん発作はないため、この論文で挙げられた予後規定因子には該当するものは無かった。
Radoi M, Ciubotaru V, Tataranu L. Chirurgia (Bucur). 2013 Mar-Apr;108(2):215-25.
寸評 割とうまくまとまっていると思います。時間制限がある中でこのできなら十分でしょう。
Seok-Jin Ko, M.D., Kyung-Jae Park, M.D., Ph.D.,corresponding author Dong-Hyuk Park, M.D., Ph.D., Shin-Hyuk Kang, M.D., Ph.D., Jung-Yul Park, M.D., Ph.D., and Yong-Gu Chung, M.D., Ph.D. J Korean Neurosurg Soc. 2014 Jul; 56(1): 34–41.
注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
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【テーマ】
右心系感染性心内膜炎の治療は左心系感染性心内膜炎の治療と同様に行ってよいか
【序論】
右心系IE(感染性心内膜炎)はIE全体の5〜10%を占め、左心系IEに比べかなり頻度が少ない1)。わたしは右心系と左心系で治療に差がないのかを疑問に思い、このテーマを選択した。今回担当した症例はMSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)が起因菌となった例であったため、本レポートではMSSAによる固有弁IEのみを扱う。
【本論】
一般にIEの治療では起因菌に基づいて抗菌薬を選択し、血液培養が陰性化した日から数えて4〜6週間投与を継続する。MSSAによる固有弁IEでは、nafcillinやoxacillin、cloxacillinといった半合成ペニシリン(2g, 4時間ごとに静注)を用いるのが一般的であり、非即時型ペニシリンアレルギー患者に対してはcefazolin(2g, 8時間ごとに静注または筋注)も使用可能である。2)-4)ただし、日本ではnafcillinやoxacillin、cloxacillinが国内で使用できないため、第一選択はcefazolinなどのセフェム系抗菌薬となっている。5)
一方、MSSAによる右心系IEでは、しばしばnafcillinやoxacillinといったβラクタム剤とgentamicin(アミノグリコシド)が2週間にわたって併用され、標準的な治療とされてきた。ただし、近年の研究でアミノグリコシドの効果よりも副作用の影響の方が大きい可能性が高まってきたため、AHA(アメリカ心臓協会)のガイドラインでは補助的なgentamicinの使用を推奨していない。3)-4)
他には、高容量ciprofloxacinとrifampicinの経口投与がブドウ球菌性の右心系IEの治療に有効だという報告がなされている。Heldman AWらによる非盲検ランダム化試験7)では、ブドウ球菌による右心系IEの患者93名のうち、45名にciprofloxacinとrifampicinの経口投与、48名にはoxacillinまたはvancomycinの静注(初めの5日間のみgentamicinを併用)を行い、4週間後の治療効果を比較した。経口投与と静注による治癒率はそれぞれ89%、90%であった(P=0.9)。また、経口投与群の2.8%、静注群の61.5%で肝や腎に薬物毒性が認められた(P<0.01)。研究結果からは経口投与は静注と同程度の治療効果をもたらす上に副作用がより少ないということが分かるが、この研究は盲検化や割付の隠蔽がなされていないため、この結果のみを根拠にして経口療法が優れていると断定することはできないと考える。今後のデータの蓄積およびより信頼度の高い臨床試験の結果が待たれる。なお、現段階における抗菌薬の経口投与は、①三尖弁のみの関与、②経口抗菌薬に対する感受性がある微生物による感染、③長期的な静注が何らかの理由で困難または不可能、といった条件を満たした場合にのみ考慮される。6)
抗菌薬投与のみで治療が不十分な場合、外科的治療が行われることもある。一般的にIEの手術適応としては、進行性心不全や弁周囲感染を伴う場合や、治療に反応しない場合、直径10mmを超える大きな疣贅が見られる場合などが挙げられる。3) ただし、右心系IEの多くは発熱が持続していても手術を要することは稀であり、手術適応や時期については議論の余地がある。三尖弁のみが関与するIEの手術死亡率は0〜15%であり、左心系IEと同等の成績となっている。1)
【結論】
右心系IEの治療は基本的に左心系IEと同様に抗菌薬静注または手術による治療が主であるが、患者背景や病状等を考慮して抗菌薬の経口投与を行うこともある。
【参考文献】
寸評 左と右を同様にして良いか、の命題には比較が必要に思います。レポートは答えになっていないのでは?
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2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
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「抜歯時の予防的抗菌薬投与は誰に対してどの程度意義があるか」
感染、主には感染性心内膜炎(IE)を予防するために、抜歯などの菌血症誘導性の処置に先立って全身的な抗菌薬投与を行うことが支持されてきた。しかし、近年AHAとESCによるエビデンスの再評価ではより厳密にIEのハイリスク群(人工弁置換患者、IEの既往がある患者など)に絞って投与すべきとのガイドライン作成に至っている。1)また、2008年英国のNICEはこのような抗菌薬投与を完全に中止すべきとの勧告を出すなど専門家の間でも意見が割れる。今回はその予防的抗菌薬投与の意義を調べた。
歯科手技の結果起こるIEの発症は、あったとしても非常に少ない。そのため、数十倍から数百倍のIEリスクを抱える少数のハイリスク群に抗菌薬の投与をするのが現実的である。2)
Xavierらが、フランスにおいて、IEの素因となる心異常を有する患者について歯科処置に際し予防的抗菌薬投与をした群としなかった群でIEの発症率を比較したところ、それぞれ年間1/46000、1/150000でIEが発症した。3)IEの院内死亡率が15-22%であるというデータを基にすると、年間100万件あたり少なくとも2.1件のIEによる死亡を減らしたことになる。一方Thornhillらは、予防的投与で用いられるAMPC(3g経口投与)とCLDM(600mg 経口投与)の副作用についてイギリスにおいて調査したところそれぞれ100万件あたり0.11件の死亡と22.62件の非致死的副作用、13件の死亡と149件の非致死的副作用があったと報告した。4)これはIEのハイリスク群に絞った研究ではないため単純な比較はできないが、2つの研究から特にAMPCの予防的投与の効果が副作用を上回る可能性が高いことが分かる。
また、Dayerらは英国におけるNICE勧告前後の予防的抗菌薬投与の件数とIEの罹患率の変化を調べる後ろ向き研究を実施した。まず1カ月当たりの平均投与件数は勧告前後5年で、平均1ヶ月あたり1万900件から2236件に減少していた。(p<0.0001)。一方2008年3月までみられたIE罹患率の上昇傾向がそのまま続いたと予測した場合と比べて、2008年4月から2013年3月では0.11人/1000万人/月(95%CI 0.05-0.16, p<0.0001)IEの罹患が増えていた。5)また、このデータを用いてIEリスクを有する患者への予防的抗菌薬使用について費用対効果が推算されている。研究では、AMPCとCLDMともに、IEのハイリスク患者および全ての有リスク患者に投与した場合、抗菌薬投与なしよりも低コストで高い効果が得られていることが分かった。また、治療費削減効果は特にハイリスク群で特に大きく、患者1人当たり平均40ポンド(約6000円)に上る。6)
この領域におけるランダム化比較試験は行われていないものの、以上から抜歯時には特にIEのハイリスク群に対して予防的抗菌薬投与を行うことにより、患者のIE発症を2/3程度予防するとともに、高い費用対効果と一定の治療費削減効果が期待される。
【参考文献】
1) ハリソン内科学 第5版,vol.2 2015;840-851
2) Up To Date: Antimicrobial prophylaxis for bacterial endocarditis
3) Xavier D et al; Estimated Risk of Endocarditis in Adults with Predisposing Cardiac Conditions Undergoing Dental Procedures With or Without Antibiotic Prophylaxis. Clinical Infectious Diseases 2016; 42(12):e102–e107
4) Martin H et al; Incidence and nature of adverse reactions to antibiotics used as endocarditis prophylaxis. Journal of Antimicrobial Chemotherapy 2015, 70(8):2382–2388
5) Mark JD et al; Incidence of infective endocarditis in England, 2000–13: a secular trend, interrupted time-series analysis. THE LANCET 2015; 385(9974): 1219-1228
6) Matthew F et al; The Cost-Effectiveness of Antibiotic Prophylaxis for Patients at Risk of Infective Endocarditis. Circulation 2016; 134(20):1568-1578
寸評 よくできました。ほぼ満点のレポートです
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「MRSAの菌血症は、どれくらいの率で見られるのか?」
MRSA は医療関連感染を起こす代表的な菌であり,院内で分離される耐性菌として最も分離頻度が高い。MRSA菌血症はどの程度の割合で発生するのか、興味を持ちこのテーマを設定した。
情報収集源として、Pub Medを使用し、MRSA菌血症(院内発生型、市中感染型の区別はしない)の発生率に焦点を当てた。分母となる期間内の集団においては、死亡、転出などが発生するので、簡便法として人年法(person-year method)を用い、発生率を発生数/10万人年と定義した上で各研究データを、研究場所、調査期間、発生率の分母となった人口、発生率の4項目を以下の表にまとめた。なお、MRSA菌血症は、感染と一致する症状および徴候を有する患者において、MRSAの1セット以上の血液培養が陽性であることを認め、診断された。
場所 |
調査期間 |
発生率の分母となった人口 |
発生率(発生数/10万人年) |
|
論文1) |
アメリカ(イリノイ州シカゴ)大都市の公立病院(464床) |
2007-2013 |
この病院の医療圏の人口(catchment population) |
16.1 |
論文2) |
フィンランド主体でその他オーストラリア、カナダ、デンマーク、スウェーデンなどの計8つの都市の基幹病院 |
2000-2008 |
多国籍人口ベースの研究。 2007年EU27カ国の年齢、性別(gender)で統計的に標準化した人口。 |
1.9 |
論文3) |
カナダ(アルバータ州カルガリー)の衛生法規の統制機関 |
2000-2006 |
カルガリー市とエアドリー市、その周辺地域の住民(人口120万人) |
2.2 |
上記表より、アメリカでの値が突出して高いが、アメリカ以外では、MRSA菌血症例の割合は一般的に低いとされている4)。今回、上記論文に相当する日本のデータを見つけることができず、日本と国際間比較を行い、日本におけるMRSA菌血症に対する対策法の是非を考察することはできなった。また、今回調べて得られた数値を他の地域に対して一般化することは難しい。日本でもMRSAの菌血症に対する疫学研究を行い、MRSA菌血症に対するリスクアセスメントやリスクコミュニケーション5)を行い、普段から適切な公衆衛生対応を行うことが望ましいと考える。
『Evolving Epidemiology of Staphylococcus aureus Bacteremia.』
『The changing epidemiology of Staphylococcus aureus bloodstream infection: a multinational population-based surveillance study.
『Staphylococcus aureus Bloodstream Infections: Risk Factors, Outcomes, and the Influence of Methicillin Resistance in Calgary, Canada, 2000–2006』
4) Up to Date 『Epidemiology of Staphylococcus aureus bacteremia in adults』
5)谷口清洲(2015)『感染症疫学ハンドブック』p160-190、医学書院
寸評 なかなかシンプルですが面白い考察です。次への研究の萌芽にもなりそうです。感心しました。
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また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
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感染症内科BSLレポート「抑うつは疼痛の程度に関係するか?」
日本神経治療学会による慢性疼痛のガイドライン1)では「慢性疼痛ではうつ状態や心理的ストレスが病状を修飾することが少なくなく,逆に慢性疼痛がうつ状態を誘発し悪循環となることも多い.」とされている。今回私は抑うつが疼痛感受性に具体的にどのように関与しているのかについて調べ、検討した。
2006年のArnowらによる大規模横断調査2) (n=5808)では、うつ病の有病率は7.1%(n=413)であり、慢性疼痛を有する率はうつ病群と対照群で66% vs. 43%であり、そのうち動けないほどの痛みを有する率は41.2% vs. 10.4%であった。
2003年のBairらによるレビュー3)では以下のようなことが明らかになった。うつ病患者の中の痛みの有病率は平均65%(15%-100%)である。疼痛にうつ病を併存した患者では痛みの訴えが多くなり、痛みの強度は増し、痛みの症状の増幅は増え、痛みの持続期間も長くなる。疼痛とうつ病の両方があると遷延性の痛みを有し、回復しない傾向がある。うつ病を有していると将来疼痛を来すことが予想される。
2016年のHermesdorfらによるうつ病群735人と対照群456人を対象とした研究4)では、疼痛の閾値を表すPPT; pressure pain thresholds と強度を表すPSQ; Pain Sensitivity Questionnaire-minor subscore(日常生活における疼痛の強さの評価方法)を指標として用いた。結果、PPTはうつ病群の方が10%低くなっていたが、調整解析を行うとうつとPPTに関連は見られなかった(PPT ratio 0.98 [95%CI=.87-.99; P=.02])。うつ病の身体症状である睡眠の質の低さ、運動レベルの低さ、また疼痛の原因を持っていることはPPTを低くする因子であった。PSQ-minorは調整解析後の平均値が3.20 vs 2.90とうつ病群で著しく高くなっていた(P< .01)。また、疼痛の原因を持っていること、睡眠の質の低さもPSQ-minorスコアを高くする因子であった。
また逆に、2009年のKroenkeらによる、筋骨格系の疼痛とうつ病を併せ持つ患者を介入群123人と通常治療群(抗うつ薬治療を行った患者も含む)127人で治療効果を比較したRCT5)では、12週間の最適化抗うつ薬治療→12週間の自己疼痛管理プログラム(計6回)→6ヶ月の治療持続期という介入を行うことで12か月後、うつ病の重症度(20-item Hopkins Symptom Checklist)はより大幅に改善し(群間差 -0.44, 95%CI -0.62~-0.26)、疼痛の重症度(Brief Pain Inventory severity)もより大幅に改善していた(群間差 -0.98, 95%CI -1.48~-0.47)。
以上より、抑うつは疼痛の強度や遷延性を増し、回復困難にさせると考えられる。しかし、二つの因果関係はうつにより疼痛が増強されること、また疼痛によりうつ状態がもたらされることの両方がある為明らかにしがたい。また、うつ病の身体症状の睡眠の質や運動レベルの低下も疼痛に関与するため抑うつ単体が疼痛に及ぼす影響の評価は困難である。また最適化抗うつ薬治療と自己疼痛管理を行うことで抑うつと疼痛の双方を改善できることも分かった。抗うつ薬の疼痛に対する純粋な寄与、疼痛の改善が直接的影響なのか抑うつの改善を介した間接的影響なのかということ、また薬剤間の違いは今回調べた研究では明らかになっていない。
臨床上は難しいであろうが、うつ病患者の中で、様々な身体症状の有無や抗うつ薬治療の有無・種類で群に分けた上で健常者と比較した研究があれば今回の疑問に対する答えはより明白になるだろう。
参考文献
寸評 非常によく議論されています。良いレポートですね。
注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
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また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
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「人工血管感染症の治療は手術が原則とされるが、行わなかった場合の治療とその効果はどうなのか」
人工血管感染症は人工血管移植後の患者の1~6%で発症する稀ではあるが、75%までの高い死亡率を伴う重篤な合併症である。CT所見で人工血管周囲の浮腫やガス産生、液体貯留などが見られ、画像診断で発見されることが多い。また最近ではPET-CTによる診断の有用性が報告されている[1]。しかし、その治療法についてAHA が発表したものによると、Extracarvitary VGIのサムソン分類Ⅰなどでは、外科的治療なしで抗菌薬治療が行われるが、基本的には感染組織のデブリドマンや感染された人工血管・デバイスの除去および再建が第一選択となる[2]。
もし手術を行わないとするならば、Extracarvitary VGIのうち複数回の手術を受けていて再手術が困難な症例など、手術適応でないとされる場合を参考にするとよいと考える。この場合は4~6週間の非経口抗菌薬療法のあとに、抑制目的に抗菌薬療法が経口的に行うことが推奨されている。この抑制療法の期間については、たとえば除去できない血管デバイスに関しての治療も参照すれば、少なくとも半年~生涯にわたって行うべきである[2]。
ただし、化学療法のみでの保存的治療は手術をした場合に比べて有意に死亡率が高くなる(hazard ratio, 3.62; 95% confidence interval, 1.17-11.24; P=.02)と言われている[3]。また感染していると疑われるデバイスの早期除去によって一年生存率が上がるとの報告もある[4]。最近の研究では血管内グラフトの除去と保存でその予後に優位差はないとの報告もみられるが、今回調べた限りでは、現段階で手術可能な症例に対して保存的治療のみにとどめるとするには根拠に欠け、手術を行わない場合の治療効果は行う場合に比べて劣ると思う[1]。
【参考文献】
寸評 難しいテーマですがまあまあうまくまとまっていると思います。お疲れ様。
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また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
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結核の診断に胸部単純X線は有用か
私の担当症例は、検診で撮影した胸部単純X線写真の所見から結核が疑われたが、精査の結果結核ではないと診断された。そこで、胸部単純X線検査は結核の診断に有用か疑問に思い、調べた。
結核の画像診断の基本は胸部単純X線であり、画像所見は結節影、小粒状影、浸潤影、肺門・縦隔リンパ節腫脹など多様である。1)
Zohar Morらは、2001年7月から2005年12月までにエチオピアからイスラエルに移住した移民の中で、胸部単純X線が撮影された13379人を対象に後ろ向き研究を行った。対象には妊婦、1歳未満の幼児、質の低いX線画像は含まれていない。肺結核疑いの胸部単純X線所見とは、上または中肺野への浸潤、胸水所見、気管支肺炎、空洞所見、浸潤影、肺門または縦隔リンパ節腫脹または放射線科医の“結核疑い”のコメントがあることと定義された。肺結核疑いの所見があった150人中、肺結核と診断されたのが46人。X線所見陰性の13229人中11人が肺結核と診断された。この集団での、事前確率は0.43%、感度は80.7%、特異度は99.2%、陽性尤度比は103.4、検査後確率は30.3%。2)
S.den Boonらは、2002年に南アフリカのケープタウンにある2つの都市で行われた結核有病率調査を後ろ向きに研究した。塗抹標本または喀痰培養で少なくとも1回の結核菌陽性の時、細菌学的結核と定義する。結核様のX線所見とは、浸潤影、空洞、微小結節、肺門リンパ節腫脹、胸水貯留と定義される。無作為に選ばれた2608人の成人の内、細菌学的に結核と診断されたのが29人で、そのうち結核様のX線所見陰性が3人。また、細菌学的に結核でない2579人のうち、結核様のX線所見陽性が311人であった。この集団での、検査前確率は1.11%、感度は89.7%、特異度は87.9%、陽性尤度比は7.43、検査後確率は7.68%。3)
私が調べた論文では、Zohar Mor らの研究では陽性尤度比が103.4、S.den Boonらでは7.43となった。研究対象期間の地域ごとの結核の有病率は、エチオピアで344/100,000人、南アフリカで341/100,000人で、平成28年の日本では13.9/100,000人であった。検査のきっかけは、エチオピアからの移民を受け入れる際の健康診断、南アフリカでの結核有病率調査と異なっていた。
Zohar Mor らとS.den Boonらの研究は、対象地域での有病率が近いが、結果がかけ離れていた。その理由としては、まず患者背景が移民と都市部の住人であり衛生環境や生活水準が異なる集団であることが挙げられる。Zohar Mor らの集団の有病率はエチオピアの有病率と比較して高くないが、1999~2005年までのアメリカへの移民の結核罹患率は961/100,000という報告がある。4)移民は結核のハイリスク群である可能性があり、移民という集団の特異性が結果に寄与したかもしれない。4)またX線所見陽性者の割合が150/13322(1.13%)vs337/2579(13.1%)と大きく異なる。この理由は2つの研究での所見陽性とする基準、読影技術、写真の質が異なることが考えられるが、論文からは読みとることはできなかった。これらを加味して、検査対象を限定することや結核疑いの胸部単純X線所見の基準を調整することで胸部単純X線の結核診断における有用性を向上させる可能性はあるが、一般化することはできないため、今の段階で胸部単純X線写真が有用であるとは言えない。
担当症例に当てはめて考えるために、日本の検診で胸部単純X線所見から結核疑いとされた患者数とその内の結核患者数などの最新データが必要であったが、見つけられなかった。
【参考文献】
1)日本結核病学会、結核診療ガイドライン改訂第3版、P25-28、南江堂
2)Mor Z1, Leventhal A, Weiler-Ravell D, Peled N, Lerman Y. Chest radiography validity in screening pulmonary tuberculosis in immigrants from a high-burden country. Respir Care. 2012 Jul;57(7):1137-44.
3) den Boon S1, White NW, van Lill SW, Borgdorff MW, Verver S, Lombard CJ, Bateman ED, Irusen E, Enarson DA, Beyers N, An evaluation of symptom and chest radiographic screening in tuberculosis prevalence surveys. Int J Tuberc Lung Dis. 2006 Aug;10(8):876-82
4)Liu Y1, Weinberg MS, Ortega LS, Painter JA, Maloney SA, Overseas screening for tuberculosis in U.S.-bound immigrants and refugees. N Engl J Med. 2009 Jun 4;360(23):2406-15.
寸評 あまりうまくまとまらなかったですね。担当した患者さんの役に立つレポートにするのが基本ですから。
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